新入社員を即戦力として活躍させるには?
この問いは、多くの企業にとって避けて通れないテーマです。慢性的な人手不足に加え、価値観の異なるZ世代や新卒学生の台頭により、これまでの教育カリキュラムや育成方針では対応しきれないという声も増えてきました。
この記事では、即戦力化を「一部の管理職や講師の属人的な技術」に頼らず、仕組みとして社内に根づかせるための基本的な育成体制の作成ノウハウや、現場で実施すべきコミュニケーションのコツまでを丁寧に解説。新人教育におけるよくある問題点の一覧とその解決方法も取り上げています。
また、新人のメンタルケアやキャリアパス設計、制度と評価の連動といった現代的な育成ニーズにも対応。人気企業の導入事例や参考になるポイントを交えながら、「自社に合った育成の進め方」がわかる内容になっています。
「教育はやっつけで終わらせない」ために、今必要なことを網羅的にお届けします。
なぜ今、新人を「即戦力化」する必要があるのか
新入社員の早期戦力化は、今や多くの企業にとって重要なテーマとなっています。背景には、人材不足の深刻化や業務の複雑化、そして若手世代の価値観の変化があります。これまでのように時間をかけて育てるスタイルでは、変化の激しい現代のビジネス環境に対応することが難しくなってきました。
この章では、新人を即戦力として育てる必要性について、多角的な視点から解説していきます。
Z世代の価値観と定着率の関係
近年の新入社員は、Z世代と呼ばれる世代が中心になっています。彼らは「自分らしさ」や「働きがい」を重視する傾向が強く、上の世代とは働くことへの価値観が大きく異なります。
このような価値観を持つZ世代は、仕事の意義や成長実感が得られないと、早期離職する傾向があります。実際に、入社から1年以内の離職率が高止まりしているというデータも多くの企業で見られます。
だからこそ、早期に仕事の手応えを感じられるようにし、「自分は役に立っている」と実感させる即戦力化が重要になります。Z世代の特性を理解し、彼らが安心して働きながらスキルを伸ばせる環境を整えることが、定着率の向上にもつながります。
企業にとっての即戦力化のメリット
新人の即戦力化には、企業側にもさまざまなメリットがあります。第一に、業務への立ち上がりが早くなることで、業務効率が向上します。現場の負担が減り、限られたリソースを最大限に活用できるようになります。
また、教育にかかる時間やコストを抑えることができ、人材育成にかける工数の最適化が可能になります。特に人事部門や現場の教育担当者にとっては、属人的な育成から脱却し、仕組みとして機能する体制を整えることが課題となっています。
さらに、新人が即戦力としてチームに貢献できるようになることで、組織全体の競争力が高まり、市場環境の変化にも柔軟に対応できるようになります。即戦力化は、新入社員だけでなく、企業全体にとって大きな成長機会となり得るのです。
背景にある人手不足と人材流動化
多くの業界で慢性的な人手不足が続いており、限られた人材をいかに早期に戦力化できるかが企業の競争力を左右する時代になっています。特に若手人材の採用が難しい中、新入社員を採用できたとしても、十分な育成期間を取れない企業も少なくありません。
さらに、現代は転職が当たり前の時代になり、優秀な人材ほど流動化が進んでいます。そのため、「育ててから活躍してもらう」という従来の考え方では、スピードについていけなくなるケースが増えています。
こうした背景から、採用した人材をいち早く現場で活躍できるように育てる「即戦力化」は、今の時代における必須の育成戦略といえるでしょう。多様なスキルや柔軟な対応力を持つ人材を早期に現場にフィットさせることが、企業の将来を左右するのです。
新人を即戦力に育てる育成体制のつくり方
新人を即戦力として育てるには、個別の努力や根性論に頼るのではなく、体系的な育成体制を整えることが不可欠です。OJTやOFF-JTといった研修手法の使い分け、経験を学びにつなげるサイクル、メンター制度など、複数の仕組みを組み合わせることで、新人が早期に現場で活躍できる環境を実現できます。この章では、即戦力化に必要な育成体制のポイントを詳しく解説していきます。
OJTとOFF-JTを組み合わせた育成設計
新人を実務に早く馴染ませるには、OJT(On-the-Job Training)とOFF-JT(Off-the-Job Training)の適切なバランスが鍵となります。OJTは、現場での実践を通じてスキルを習得する方法であり、即戦力としての能力を育むために欠かせない手段です。実際の業務を通じて得た気づきを、フィードバックによって整理することで、成長速度が加速します。
一方で、OFF-JTは実務から離れて知識を体系的に学ぶ場です。業界や職種に関する知識、ビジネスマナー、論理的思考など、実務では習得しづらい基礎的・理論的なスキルを補完します。また、研修後には振り返りの時間を設けることで、学びを実務に落とし込む視点が養われます。
この2つを連携させることで、知識と経験の両面から成長を支援でき、新人の即戦力化に大きな効果を発揮します。
経験学習サイクル(PDCA)を活かした教育
新人が自らの行動を通じて学びを深めるためには、「経験学習サイクル(PDCA)」の考え方が有効です。PDCAとは、計画(Plan)→実行(Do)→振り返り・評価(Check)→改善(Act)というサイクルを繰り返すことで、継続的に成長していく手法です。
単に経験させるだけでは学びは深まりません。重要なのは、その経験を振り返り、なぜうまくいったのか、あるいはなぜ課題が生まれたのかを自ら分析させる時間を設けることです。そのうえで次に活かす行動計画を立てることで、単なる「やりっぱなし」から脱却し、着実にスキルを蓄積できるようになります。
このような内省の習慣を新人時代から身につけることで、自律的な成長が可能となり、将来的な人材価値の向上にもつながります。
メンター・トレーナーの役割と支援体制
新人が安心して挑戦できる環境を整えるうえで、メンターやOJTトレーナーの存在は非常に大きな意味を持ちます。経験豊富な先輩社員が個別に指導や相談対応を行うことで、新人は実務面・精神面の両方で支えを感じることができます。
特に、業務に対する不安や疑問を早期に解消できる仕組みがあることで、新人のモチベーションを維持しやすくなります。メンター制度を効果的に機能させるためには、メンター自身の研修や定期的なフォローも不可欠です。
また、指導側と新人との信頼関係を構築するためには、相互理解を深める時間の確保や、フィードバックの質を高める工夫が求められます。制度を「つくること」だけで満足せず、現場で「機能させる」視点が大切です。
スケジュールと育成計画の共有方法
育成の成果を着実に得るためには、あらかじめスケジュールと育成計画を明確にしておくことが重要です。何を、いつまでに、どのように身につけてほしいのかを可視化することで、本人の理解も深まり、育成の方向性がぶれにくくなります。
また、柔軟な対応も同時に必要です。実際の業務進行に応じて、計画を見直すことができるような体制にしておくことで、新人にとっても無理のない成長環境が整います。定期的なチェックポイントを設けて進捗を確認し、目標達成までの道筋を調整していくことが、実効性の高い育成体制につながります。
スケジュールは企業と本人の「育成の約束」であり、それを双方で共有しながら運用していくことが、即戦力化への近道です。
育成を機能させるために現場が意識すべきこと
どれほど立派な育成制度を整えても、それが現場で機能しなければ新人の即戦力化は実現しません。実際の育成の主戦場は日々の現場であり、そこでの関わり方やサポート体制こそが成果を左右します。ここでは、現場が意識すべき具体的なポイントとして、目標設定・フィードバック・職場環境づくりの観点から解説します。
成長を実感させるフィードバックの仕組み
新人が主体的に成長していくためには、自身の変化や成果を実感できる環境が不可欠です。そのためには、具体的かつ継続的なフィードバックの仕組みが必要になります。
フィードバックは、何ができていて、どこに改善の余地があるのかを明確に伝えることが大切です。また、ポジティブな点も同時に伝えることで、新人の自信を育て、前向きな行動につなげることができます。フィードバックは評価ではなく「成長のための対話」と捉えることがポイントです。
さらに、改善点については抽象的な指摘にとどまらず、具体的なアクションの提案まで行うことで、新人が次に何をすれば良いかが明確になります。これにより、新人は安心して行動を起こしやすくなり、結果的に成長スピードが高まります。
目標設定と進捗管理の設計
即戦力化を目指すうえで、目標設定は不可欠な要素です。特に、SMART原則(Specific/Measurable/Achievable/Relevant/Time-bound)を活用した目標設計は、新人にも分かりやすく、達成に向けた行動が取りやすくなります。
設定した目標は、一度決めて終わりではなく、定期的に進捗を確認し、柔軟に見直すことも大切です。また、大きな目標だけでなく、小さなマイルストーンを設定していくことで、新人自身が「自分は前に進んでいる」という実感を持ちやすくなります。
育成担当者との定期的な面談やチェックリストの活用などにより、進捗を「見える化」することで、モチベーションを維持しながら着実な成長を促進できます。
新人の不安を解消する職場づくり
新人が実力を発揮するためには、安心して行動できる職場環境が必要です。育成において重要なのは、「失敗できる空気」をつくること。新しい環境でのチャレンジには不安がつきものですが、その不安を受け止める風土があれば、新人は思いきって行動に移すことができます。
まず、オープンなコミュニケーションを促進し、誰でも質問や相談ができる環境を整えることが大前提です。さらに、業務面だけでなく、メンタル面のケアも見落としてはなりません。産業医やカウンセラーの活用、定期的な雑談面談など、企業としてのサポート体制を整備することが重要です。
安心感のある職場は、新人の定着と成長の両方に好影響を与える基盤となります。育成施策と並行して、職場文化の改善にも注力していきましょう。
即戦力化を妨げるよくある失敗とその回避策
新人の即戦力化を目指して制度や仕組みを整えているにもかかわらず、思うように成果が出ない。そう感じている企業は少なくありません。その原因は、新人自身の資質だけでなく、育成の設計や現場での運用に潜む“よくある失敗”にあることが多いのです。
この章では、現場で見落とされがちな育成の落とし穴について、具体例とともに紹介します。また、単なる問題提起にとどまらず、すぐに実践できる回避策も合わせて解説することで、現状に課題を感じている担当者の方が明日から育成を立て直すきっかけとなる内容をお届けします。
教育内容の詰め込みすぎ
即戦力化を急ぐあまり、短期間でできるだけ多くの知識やスキルを教え込もうとするケースは非常に多く見られます。しかし、新人はまだ業務全体の流れや用語にすら慣れていない段階。そうした中で次々と新しい情報を与えられても、理解が追いつかず、結果的に内容が頭に残らないという事態に陥りがちです。
例えば、入社1カ月で複数部門の業務フローを一気にレクチャーした結果、どの業務がどの役割とつながっているのか分からなくなり、学びへのモチベーションが低下した、という事例も少なくありません。
このような失敗を避けるためには、教育のステップを段階的に設計することが必要です。まずは基礎的な業務や知識の定着に重点を置き、理解度を定期的にチェックしながら、応用や横断的な知識へとステップアップさせていく構成にしましょう。
また、「今日は何を学ぶのか」「なぜそれを今やるのか」を明確にすることで、新人が自分の成長を実感しやすくなり、内容の定着度も高まります。詰め込むより、絞って深く学ばせるほうが、結果的に即戦力化への近道となるのです。
目的が伝わらない指導
どんなに丁寧な研修やOJTを行っても、その「目的」が伝わっていなければ、学びは意味を持ちません。新人は、目の前の業務や知識が「なぜ必要なのか」「どんな場面で役立つのか」が分からないと、自分ごととして理解できず、やらされ感を覚えてしまいます。
たとえば、ある企業では「報連相」の徹底を研修で指導していたにもかかわらず、新人たちはその背景や狙いを理解していなかったため、業務では表面的な対応しかできず、チーム内でのすれ違いが頻発していました。
このような状況を防ぐためには、教育の場面で「目的」と「実践のイメージ」を必ずセットで伝えることが大切です。具体的な成功事例や、先輩社員がそのスキルをどのように活用しているかを共有することで、新人にとっても学ぶ価値が実感できるようになります。
また、研修後のフォローアップ面談などで「この前の内容、実際にどう使った?」と問いかけることも、理解を深める手助けになります。教育の質を上げるためには、単に「何を教えるか」だけでなく、「どう伝えるか」「どう紐づけるか」が重要なのです。
指導者の感情的な対応
新人育成の現場で意外と多く見られるのが、指導者の感情的な対応による信頼関係の崩壊です。忙しい現場で新人がミスをすると、つい語気が強くなってしまったり、不満をそのまま言葉にしてしまったりというケースは、どんな職場でも起こり得ます。
しかし、新人にとってそれは「怒られた」「否定された」という強い記憶として残り、今後の行動や質問への消極性につながります。実際に、初期段階で一度厳しく叱責された新人がその後一切発言しなくなり、育成が止まってしまったという例も報告されています。
こうした事態を防ぐには、感情に左右されず「冷静で前向きな対話」を意識することが重要です。指導者自身が、自分の感情の揺れに気づけるようにトレーニングを受けたり、事例共有を行ったりすることも有効です。
また、改善点を伝える際には「次にどうすればうまくいくか」をセットで伝えることで、新人は否定されたと感じることなく、前向きに受け止めやすくなります。日常的にポジティブな声かけや小さな成果の承認を積み重ねることで、ミスへの指導も信頼のもとで行えるようになります。
このような失敗は、決して特別なケースではなく、多くの現場で無意識のうちに起こっているものです。しかし、どれも意識と工夫次第で改善可能なものばかりです。
育成に悩む企業こそ、こうした「つまずきやすいポイント」を押さえておくことで、即戦力化への道を着実に進むことができます。
新人のメンタルヘルスとストレスマネジメント
即戦力としての活躍を求められる一方で、新人が感じる心理的な負担は決して小さくありません。業務への適応、職場の人間関係、自己評価や将来への不安など、目に見えにくいストレス要因が日常の中に潜んでいます。
メンタルの安定は、スキルや知識の吸収力にも直結する重要な土台です。この章では、新人が直面するメンタル面の課題とその背景、企業が果たすべきサポート体制、そして新人自身によるセルフケアの方法について解説します。
プレッシャーを感じやすい新人の現状
新入社員は、「早く一人前にならなければ」「周囲の期待に応えたい」という思いから、強いプレッシャーを感じやすい立場にあります。実際、多くの新人が「職場に馴染めるか」「評価されるかどうか」「失敗をしたらどうしよう」といった不安を日常的に抱えています。
また、近年のZ世代は、自分の価値観や働き方を大切にする傾向があり、組織のルールや慣習とのギャップに戸惑うこともあります。その結果、気づかないうちに心身に負担をかけ、体調不良やパフォーマンス低下につながるケースもあります。
これらは、業務面だけでなく定着率にも大きく影響するため、メンタル面の支援は人材育成の一部として捉える必要があります。まずは、新人が感じている不安やストレスに企業側がしっかりと目を向けることが第一歩となります。
企業に求められるメンタルサポート体制
新人のメンタルヘルスを守るには、職場全体での「仕組み」と「文化」の両面からのアプローチが求められます。最も重要なのは、「困ったときにすぐ相談できる環境」が整っていることです。たとえば、以下のようなサポート体制が効果的です。
- 定期的な1on1ミーティングによる状態把握
- メンター制度やピアサポート制度による相談相手の明確化
- 人事・産業医・EAP(従業員支援プログラム)など専門部署との連携
また、上司やOJT担当者には、メンタルヘルスの初期サインに気づける観察力と対応力も求められます。怒りや無気力などの表出だけでなく、「急に静かになった」「報連相が減った」といった変化にも敏感になることが重要です。
さらに、職場全体で「失敗しても学べばよい」という心理的安全性を醸成することが、長期的な成長を支える土壌となります。
新人のためのセルフストレスマネジメント法
企業が支えるだけでなく、新人自身も自分のストレスと上手に向き合う力を育てていくことが大切です。そこで有効なのが、「セルフストレスマネジメント」という考え方です。これは、自分の感情や体調の変化に気づき、自分でケアする習慣を身につけることを意味します。
具体的には以下のような方法が挙げられます。
- 日々の感情を記録する「感情ログ」
- 軽い運動や呼吸法などのリラクゼーション
- 週に一度の振り返りで「できたこと」に目を向ける
- 信頼できる人に気持ちを言語化する習慣
また、企業側がこれらの方法を研修やワークとして導入することで、新人が実際に習慣化しやすくなります。セルフケアは一朝一夕に身につくものではありませんが、長期的に見て「折れない人材」を育てるための重要な素養となります。
長期的なキャリアパスと即戦力化のバランス戦略
新人に早期の即戦力化を求める一方で、長期的なキャリア形成が後回しにされてしまうケースも少なくありません。しかし、短期的なパフォーマンスだけを評価する環境では、新人が将来への不安を抱え、離職リスクが高まる可能性もあります。これからの人材育成では、即戦力化とキャリアパス形成の両立こそが求められています。この章では、そのバランスを実現するための考え方と具体的な仕組みを解説します。
新人のキャリア形成と即戦力化の関係性
「即戦力」と「キャリア形成」は、一見すると相反するテーマのように思えるかもしれません。ですが、実際にはこの2つは切り離せない関係にあります。早い段階で業務を通じてスキルや成果を積み上げることができれば、それがキャリアの第一歩となり、自信や方向性につながります。
重要なのは、新人に対して「今、取り組んでいる業務が、将来どんな可能性を広げるのか」を見える形で伝えることです。例えば、配属された部署で得られるスキルが他部署や他職種でどう活きるか、どのような成長ルートが想定されるのかを明確にすることが効果的です。
キャリアの視点を持たせることで、新人は短期的な負荷に意味を見出し、より前向きに業務へ取り組めるようになります。
育成施策と評価制度の連動方法
即戦力化とキャリア形成を両立させるためには、育成と評価の仕組みが連動している必要があります。新人がどれだけ早く成果を出せるかだけではなく、「どんな姿勢で学んでいるか」「どのように成長しているか」を評価する視点が重要です。
たとえば、下記のような連動が挙げられます。
- OJT中の観察記録や1on1での成長コメントを評価資料として活用する
- 短期KPIだけでなく、中長期的な成長目標も評価基準に加える
- 自己評価や振り返りシートを定期的に取り入れ、内省を促す
このように、育成と評価の指標が一貫性を持つことで、新人は「ただ評価される存在」ではなく、「育てられ、育っていく存在」として安心してキャリアを積み重ねることができます。
キャリアパス設計における人事の役割
人事部門には、個々のキャリアパスを企業の中長期的な人材戦略と接続させる「ハブ」としての役割が求められます。現場主導の育成に任せきりにするのではなく、全社視点での成長シナリオを示すことが人事の価値です。
具体的には、次のような取り組みが求められます。
- 職種・等級ごとのキャリアモデルの明示
- スキルマップやキャリア開発支援シートの整備
- 本人の希望を踏まえた面談・ローテーション制度の設計
また、新人研修やOJTが終わったあとも、中期的なキャリア支援施策を用意することで、モチベーションの維持と定着を促すことができます。人事が個人のキャリアと組織の将来をつなぐ架け橋となることで、即戦力化と持続的な成長の両方が実現されていきます。
変化する社会と教育体制のこれから
ポストコロナを経て、社会・働き方・人材への期待は急速に変化しています。新人教育も例外ではなく、従来の「対面中心・現場任せ」だけでは通用しない時代に突入しました。今後は、場所や時間に縛られない柔軟な教育体制と、継続的なサポートを組み合わせた仕組みづくりが必要です。この章では、社会の変化に適応する新人教育のあり方について、今後を見据えた視点で解説します。
ポストコロナ時代の新人教育の課題
新型コロナウイルスの影響により、テレワークやオンライン研修が急速に普及しました。多くの企業が環境の変化に対応するなかで、新人教育も一時的に「止まる」「薄くなる」といった課題が浮き彫りとなりました。
特に以下のような悩みが多く見られます
- 現場との接点が少なく、組織文化が伝わらない
- 孤立感から不安やモチベーション低下につながる
- 「見て覚える」ができず、成長実感を得にくい
ポストコロナ時代に求められるのは、「教育は現場だけでなんとかする」という発想の転換です。オンラインと対面の特性を活かし、新人がどんな環境でも“人とのつながり”と“成長実感”を得られる仕組みを企業側が積極的に整えていく必要があります。
オンライン研修と対面のハイブリッド化
オンライン研修は、時間や場所に縛られず、多くの学びを可能にします。一方で、対面による交流や現場での経験がなければ「実践力」や「関係構築力」が育ちづらいという側面もあります。
そこで、今注目されているのが ハイブリッド型の教育体制 です。
- 【オンライン】:基礎知識の習得・eラーニング・座学・自己学習
- 【対面】:ロールプレイ・現場同行・1on1・フィードバック面談
このように役割を分けることで、効率性と人間的なつながりの両方を両立できます。また、研修を記録・可視化しやすくなるため、個人ごとの理解度や進捗も追いやすくなるのが特長です。
デジタルの力を活かしながらも、“人を育てるのは人である”という本質を忘れないことが大切です。
育成を止めないための継続的支援
新人教育は「入社後3カ月で完結」ではなく、「育成は常に続いていくもの」という視点が不可欠です。とくに環境変化が激しい今、継続的なサポート体制があるかどうかが、即戦力化だけでなく定着率にも直結します。
効果的な継続支援には、以下のような仕組みが挙げられます
- 定期的な振り返りミーティング(3カ月ごと・半年ごと)
- キャリア面談を通じた将来像の言語化
- 内省や目標確認を行う「1年目サイクルプログラム」
- 自主学習コンテンツや動画教材の提供
ポイントは、「育成の主導権を新人に渡すこと」。一方的な指導ではなく、本人が“自分のキャリアを育てていく”という感覚を持てるようサポートしていく必要があります。
社会が変化し続ける中で、“育成を止めない文化”を組織に根付かせることが、これからの企業にとって大きな競争力となるでしょう。
即戦力化の鍵は「仕組み」と「風土」
本記事では、新入社員を即戦力として育成するための具体策や考え方を紹介してきました。
その中で見えてきたのは、即戦力化を成功させている企業には共通して「仕組み」と「風土」の両方が存在しているということです。ここでは、教育を一過性の施策で終わらせず、人が育ち続ける組織を実現するために必要な視点を整理します。
「属人化しない育成」が会社の未来をつくる
新人育成がうまくいかない企業の多くに共通するのが、「育成が特定の人に依存している」という構造です。たとえば、教育熱心な上司がいる部署では成長が早くても、その人が異動・退職すると一気にレベルが落ちてしまう。このように、属人的な育成は組織としての再現性に欠け、長期的に見れば大きなリスクとなります。
今、多くの企業が求めているのは、“誰が担当しても一定レベルの成果が出せる”育成体制です。
そのためには
- 明文化された育成フローやチェックリスト
- 部署をまたいで共有されるナレッジとツール
- 上司任せにせず、人事・現場が連携する支援体制
といった仕組みが必要です。
育成を「属人化」させないことで、教育の品質は安定し、社員研修が“組織の資産”として機能します。
それは新人の早期戦力化だけでなく、将来的な人材育成のコスト削減、離職率の低下、企業ブランドの強化にもつながっていくのです。
人が育つ組織の共通点とは
即戦力化がうまくいっている企業には、数字や実績だけでなく、「人が安心して学べる風土」が根付いています。
このような企業では、新入社員がわからないことを“質問していい”“ミスしていい”という空気があり、上司・先輩も育成の意義を深く理解しています。
ポイントは次のような特徴です:
- 成果だけでなく“成長プロセス”を評価する文化
- 現場と人事が一体となって新人を支援する体制
- 部下の意欲や特性に合わせたコミュニケーションを意識する上司層
- 組織全体が「学び続ける姿勢」を持っている
このような「育つ文化」が社内にあることで、新人教育は単なる研修やマニュアルを超えて、組織の中に根付き、企業の人材力そのものを押し上げる資産となります。
教育において最も重要なのは、“人”を育てるという長期的な視点を持つこと。
そのために必要なのは、一部の部門だけで頑張るのではなく、組織全体で育成を共通の目標とする空気を醸成することです。
まとめ
新人を即戦力に育てるには、「属人化しない仕組み」と「安心して育つ風土」の両方が必要です。
ここまでご紹介したように、OJTやOFF-JT、キャリア支援や評価制度の連動、職場風土まで含めて設計・実施していくことが、育成の成功に直結します。
一方で、「やり方を変えたいが、どこから手をつければ良いかわからない」「認識が部署ごとに異なる」と悩む企業も少なくありません。そんなときは、まず上記で紹介した各章の要点を社内で共有し、現場・人事・経営層が同じゴールを持つことが大切です。
教育は一度作って終わりではなく、時代や人材の変化にあわせて進める必要があります。この記事が、自社に合った仕組みの再設計や、次の一手を考えるヒントになれば幸いです。
若手も管理職も、成長を実感できる研修を


「何年も同じ研修を繰り返しているけど効果が出ているのかな?」
「研修後の振り返りがないから、学びが定着しない気がして…」
「OJTをやって終わりだけど、それだけで成長を促すのは難しい」
若手や管理職の育成は、どの企業にとっても大きなテーマです。「新人がなかなか定着しない」「OJTだけでは限界を感じる」など、同じようなお悩みを抱える企業も少なくありません。
アクシアエージェンシーの研修サービスは、そうした声に寄り添いながら、現場で本当に役立つ力を育てることを大切にしています。
アクシアエージェンシーの人材育成・研修サービスの特徴
- 一度きりで終わらない研修設計で、学びを定着させる仕組みを提供
- 動画やフォローアップで、現場での行動変化まで伴走
- 採用支援から育成・定着まで一気通貫で見える人材課題を解決
- 法人営業や人事経験を持つ講師が担当し、現場に即した実践的な学びを提供
研修の形は企業ごとにさまざまです。まずは貴社の状況や課題をお聞かせください。最適な研修プランを一緒に考えていきます。お気軽にご相談ください。
監修者情報

ビジネスソリューションユニット 研修開発グループ
中井 美沙
株式会社アクシアエージェンシー新卒入社。求人広告営業として大手中小企業の採用活動に携わる。2020年人事コンサルティング会社へ出向し研修企画実施や人事評価制度運営などに従事。2022年に研修開発部立ち上げに参加。人事部と兼務しながら社内の人材育成、人事評価制度運用、人事面談、社内外の研修企画実施などに従事。国家資格キャリアコンサルタント取得。株式会社アナザーヒストリー プロコーチ養成コーチングスクール修了。