人を育て、組織を動かす管理職へ─未来を創るマネージャー育成の5ステップ。このシリーズでは、管理職が“育てる存在”となるために必要な視点や行動を、5つのステップに分けてお伝えしていきます。
成果を出すだけではない、新しいマネージャー像が求められる時代。スキルや知識の習得だけでなく、マネージャーとしてのあり方や育成の責任に向き合うことが、組織の未来をつくる土台になります。
第5回のテーマは、「育てる力」が動かす、組織の未来。どれほど優秀な人材を採用しても、その力が活かされ、成長につながるかどうかは、日々のマネジメント次第です。価値観が多様化し、変化のスピードが増す今、マネージャー一人ひとりが育てる存在として機能することが、組織の持続的な競争力に直結します。
ただし、マネージャー自身も育成されている存在であり、意識だけで育成文化が根づくわけではありません。今回は、「育てる力」の波及がどのように組織を変えるのか、そしてその力を戦略的に育むために、経営や人事が果たすべき役割について紐解いていきます。
マネージャーが「育てる存在」になると、チームはどう変わる?
これまでの記事では、マネージャーが育てる存在として、信頼関係を築き、対話し、伝える責任を果たしていくプロセスを見てきました。では実際に、マネージャーがそのスタンスを身につけたとき、チームにはどのような変化が起きるのでしょうか?
チームや組織の変化は、大きな制度改革や画期的な取り組みによって起こるとは限りません。むしろ、一人のマネージャーが「部下とどう関わるか」を変えることが、結果としてチームの行動や文化を変えていく起点になります。
成果だけでなく、成長が生まれるチームへ
マネージャーが育成に向き合い始めると、まず起こるのが部下の自律性の変化です。指示待ちではなく、任された役割を自分ごととして捉え、考え、行動するようになっていきます。
「やり方を教える」だけでなく、たとえば次のような関わりを積み重ねることで、部下の内側にある意志が引き出されていきます。
- 考えるきっかけを与える
- 成果ではなく過程を見て声をかける
- 安心して挑戦できる関係性を築く
こうして任されて育つ経験を積んだ部下は、次第に自分で課題を捉え、選択し、行動する力をつけていきます。失敗しても一緒に振り返ってくれる存在がいることで、「挑戦してもいいんだ」という空気が生まれ、挑戦と学びが循環するチーム風土へと変わっていきます。
これは単なるスキルアップではなく、「人が育つ組織」への第一歩。目の前の成果だけでなく、将来にわたって価値を生む人と組織の成長が、ここから始まっていくのです。
一人のマネージャーの変化が、組織に波及する
そして、マネージャーの育てる姿勢が本当の意味で成果を生むのは、その影響がチームの外側へ波及していくときです。
たとえば、マネージャーから丁寧に関わってもらった部下が、次に自分が後輩やメンバーを育てる立場になったとき、自然と「かつて自分がしてもらったように」関わろうとするようになります。良い育成は、連鎖するのです。
さらに、こうした関わり方がチーム内で繰り返されることで、「これくらい関わるのが当たり前」「こういう場面では、ちゃんと伝える・対話する」という育成の基準が、チームの文化として根づいていきます。
つまり、マネージャー一人の変化は、そのチームだけにとどまりません。
育成という文化が浸透することで、組織全体の風土を変えていく力になるのです。
「育成できるマネージャー」は、育成されているマネージャー
部下を育てる存在として、日々向き合っているマネージャー自身もまた、組織の中で育てられている途中の存在です。育成を担う役割を与えられたからといって、すぐに任せ方や関わり方の正解がわかるわけではありません。
だからこそ、マネージャーにも「学びながら育っていける環境」が欠かせません。そしてその環境は、本人の努力だけではなく、上司や組織の支援によってつくられるものです。
この章では、マネージャー自身の成長と、育成文化を根づかせるために必要な組織の在り方について紐解いていきます。
マネージャー自身も、“育てられて伸びる存在”
マネージャーに昇進すると、「一人前として振る舞わなければ」「もう教える立場だから」と、自分が育てられる側であることを手放してしまう人も少なくありません。しかし実際には、マネージャーもまた、成長の途中にある存在です。
役割が大きく変わる中で、多くのマネージャーが次のような悩みに直面します。
- 「指導しているつもりだけど、部下が動いてくれない」
- 「どう任せて、どこまで関わるのがいいのか分からない」
- 「対話しているつもりでも、部下の反応が薄い」
マネージャーも、学びながら役割をつくっていく
こうした葛藤に一人で向き合い続けていては、視野が狭まり、やがては自信を失ってしまうかもしれません。だからこそ、マネージャーにとっても、周囲からのフィードバックや問いかけが欠かせないのです。
たとえば、上司との1on1や人事との対話、同じ立場のマネージャー同士での学び合い等、そうした関わりを通して、自分のマネジメントを振り返り、関わり方を再構築するきっかけが生まれます。
「任せる力」「対話力」「育成力」といったスキルは、生まれつき備わっているものではありません。経験と実践、そして周囲からの関わりによって、磨かれていくものなのです。マネージャー自身が「自分も育てられている」と実感できることは、育成される側の気持ちを持ち続けることにもつながります。
その姿勢が、部下との関わりにも自然とにじみ出ていく──そうして初めて、育成の視点がチームや組織に広がり、「育て合う文化」の土壌が育っていくのです。
「育成する文化」は、人事・経営層の支援でつくられる
マネージャーを育てる存在として機能させるためには、本人の意識だけに頼らず、仕組みとして支えていく視点が欠かせません。育成の質は、現場任せではつくられません。
たとえば、マネージャー自身が日々の業務に追われ、「育成に向き合う余裕がない」「手が回らない」と感じていたらどれだけ意欲があっても、育成に十分な時間とエネルギーをかけることは難しくなります。だからこそ、組織として大切なのは、評価だけでマネージャーを管理するのではなく、育成に向き合う余白と支援をつくることです。
育成に向き合える「余白」を、組織がつくる
現場内での相談環境の整備や、ミドルマネジメント層との対話機会の設計、育成スキルを高める研修や伴走支援の導入などマネージャーが「育てる」役割に手応えを持てるような環境づくりが、結果として現場の育成の質を高め、組織全体の学習力を底上げすることにつながります。
こうした支援の在り方は、「現場をどうマネジメントしているか」という視点で、マネージャーの上司自身にも問われます。上司の関わり方が、次のマネージャーの在り方をかたちづくっていくのです。そして、それが育成の文化が連鎖していく本当の起点になるのです。
“育成型マネージャー”が、企業の競争力を変える
人材不足や離職率の上昇、働き方の多様化──企業を取り巻く環境が大きく変化する中で、「採用」だけでなく「活かす力」が問われる時代がきています。
そんな今、企業の競争力を左右するのが、誰のもとで働くか?という体験です。一人ひとりの可能性を引き出し、挑戦を支援できる「育てられる上司」の存在は、個人の活躍を後押しするだけでなく、組織の魅力やエンゲージメントにも直結します。
この章では、「育成型マネージャー」が企業にもたらす価値を見つめ直し、それを組織の戦略としてどう育てていくのかを考えていきます。
「育てられる上司」が、採用よりも人を活かす
いま、働く人々の価値観は大きく多様化しています。「仕事に何を求めるか」「どんな環境で力を発揮できるか」は、年齢や属性では括れず、一人ひとり異なる軸で語られる時代です。スキルアップ、自己実現、チームとのつながり、プライベートとのバランス──そのどれもが、正解であり得ます。
そうした中で、採用や人材獲得に力を入れる企業は多くありますが、重要なのはその後です。どれほど魅力的な人材を採っても、迎え入れた後にどう関わり、どう活かしていくかで、その価値は大きく変わってしまいます。
採用の先で問われる、「誰のもとで働くか」
このとき、鍵を握るのが「誰のもとで働くか」です。個々の違いや想いに寄り添い、型にはめるのではなく、その人自身の成長や活躍を後押ししてくれる上司──そうした育てられる上司の存在は、社員が長く、前向きに働き続けるうえで欠かせない土台になります。
「あなたのことをちゃんと見ている」「一緒に考えるから、大丈夫」そう言ってくれる人が身近にいることが、不確実な時代において、働く人の安心と挑戦を支えていくのです。つまり、育てられる上司が現場にいるということは、多様な人材がそれぞれの強みを活かしながら、自分らしく働ける組織であることの証明です。
「育てられる上司」が、定着と成長を支える
採用はスタートラインにすぎません。その先で人が活かされ、育ち、また次の人材に関わっていくという循環を生むためには、「育てる力のあるマネージャー」が現場にいることが不可欠です。
「この上司のもとでなら、もっと成長できそう」「ここにいれば、チャレンジできる」そう思える関係性がある職場は、社員一人ひとりの自律性や定着率を高め、やがてそれが組織全体の競争力へとつながっていきます。
人を活かす力がある組織には、育てられる上司がいる。一人ひとりの多様な価値観やキャリア観に寄り添い、可能性を引き出せるマネージャーの存在は、組織の中で人材を活かし、活躍を継続させていくための強固な基盤です。採用がスタートラインだとすれば、「誰のもとで、どう育つか」は、その後の定着・成長・貢献すべてに直結します。
この、育てられる上司が現場にいる、という事実こそが、これからの企業にとって最大の競争力になるのです。
「育てる力」は、経営の投資テーマである
マネージャーがどれだけ部下の育成に向き合えるか──その姿勢や関わり方は、決して本人の資質や意識任せで済ませていいものではありません。
育成とは、企業の未来をつくる営みであり、だからこそ経営として「文化にする」視点が必要です。そのために欠かせないのが、意識と仕組みの両面からの支援です。
育成を「再現性のある仕組み」にする
- 育成行動やチーム貢献を正しく評価・承認する制度設計
- 育成にかける時間を前提とした業務の再設計
- 対話やフィードバックなど、育成に必要なスキルを磨く機会の提供
こうした仕組みが整えば、「育てる」ことが一部の優れたマネージャーだけの取り組みではなく、組織全体に再現性のあるスタンダードになります。
また、「育成できるマネージャーを増やす」ことは、単なる人材育成の強化ではありません。変化の激しい時代において、自ら考え動く人材を育てられる組織こそが、生き残る組織であるという前提に立てば、これは経営の本質に直結する投資です。
個人の変化から始まる育成の文化も、それを「再現性のある仕組み」として広げていくことで、組織の競争力として根づいていく──その支援こそが経営の役割です。「育てる力」を支えることは、目の前の成果を生み出す手段であると同時に、企業の未来価値を高める戦略的投資。そうした視点でマネージャー育成に取り組むことが、これからの経営に求められているのです。
「育てる力」が、組織を変える起点になる
マネージャー育成とは、役割やスキルを教えるだけではありません。「育てる存在としてのあり方」「信頼関係を築く姿勢」「伝える力と対話の技術」。こうした視点を備えたマネージャーが一人、また一人と現場に増えていくことが、やがてチームと組織の風土を変えていきます。
本シリーズでは、マネージャーが育てる存在になるための5つのステップを、以下のテーマで紐解いてきました。
- 第1回|“任せればいい”では育たない──マネージャー育成の本質とは
“成果を出す人”から“人を育てて成果を生む人”へ──育成視点への転換 - 第2回|“手を動かす上司”から“人を育てる上司”へ
プレイヤー脳から脱却し、“育成の設計者”としての視点を持つ - 第3回|信頼される上司は、“聴く力”を育てている
「話せる関係性」から育成は始まる──対話が育つチームのつくり方 - 第4回|“言えない上司”が組織を弱くする
フィードバックを恐れず、成長を支える──「伝える力」がチームを動かす - 第5回|“育てるマネージャー”が、組織を変える
自律する部下、連鎖する育成──チームと企業の未来をつくる視点
マネージャー育成は、「成果管理」から「育成支援」への転換
これらのステップを通じてお伝えしたかったのは、マネジメントを成果管理から育成支援へと進化させる視点です。マネージャーは、個人の資質で何とかする属人的な存在ではなく、企業の未来を担う育成の担い手であるべきです。そしてその成長を、組織として支えることは可能です。
「人が育つ組織」は、偶然ではなく設計できる。そして、「育てるマネージャー」が生まれることで、その文化が現場に根づいていきます。成果と育成を両立できるマネージャーが増え、育成の連鎖が広がっていく──そのスタート地点を、組織としてどうつくるのか。本シリーズが、皆さまのマネージャー育成設計の一助になれば幸いです。
若手も管理職も、成長を実感できる研修を


「何年も同じ研修を繰り返しているけど効果が出ているのかな?」
「研修後の振り返りがないから、学びが定着しない気がして…」
「OJTをやって終わりだけど、それだけで成長を促すのは難しい」
若手や管理職の育成は、どの企業にとっても大きなテーマです。「新人がなかなか定着しない」「OJTだけでは限界を感じる」など、同じようなお悩みを抱える企業も少なくありません。
アクシアエージェンシーの研修サービスは、そうした声に寄り添いながら、現場で本当に役立つ力を育てることを大切にしています。
アクシアエージェンシーの人材育成・研修サービスの特徴
- 一度きりで終わらない研修設計で、学びを定着させる仕組みを提供
- 動画やフォローアップで、現場での行動変化まで伴走
- 採用支援から育成・定着まで一気通貫で見える人材課題を解決
- 法人営業や人事経験を持つ講師が担当し、現場に即した実践的な学びを提供
研修の形は企業ごとにさまざまです。まずは貴社の状況や課題をお聞かせください。最適な研修プランを一緒に考えていきます。お気軽にご相談ください。
監修者情報

ビジネスソリューションユニット 研修開発グループ
中井 美沙
株式会社アクシアエージェンシー新卒入社。求人広告営業として大手中小企業の採用活動に携わる。2020年人事コンサルティング会社へ出向し研修企画実施や人事評価制度運営などに従事。2022年に研修開発部立ち上げに参加。人事部と兼務しながら社内の人材育成、人事評価制度運用、人事面談、社内外の研修企画実施などに従事。国家資格キャリアコンサルタント取得。株式会社アナザーヒストリー プロコーチ養成コーチングスクール修了。



