人を育て、組織を動かす管理職へ─未来を創るマネージャー育成の5ステップ。このシリーズでは、管理職が“育てる存在”となるために必要な視点や行動を、5つのステップに分けてお伝えしていきます。
成果を出すだけではない、新しいマネージャー像が求められる時代。スキルや知識の習得だけでなく、マネージャーとしての“あり方”や“育成の責任”に向き合うことが、組織の未来をつくる土台になります。
第1回のテーマは、「マネージャー育成の本質」=“育てる力”の重要性。育成スキルは、特別なリーダーだけに求められるものではなく、これからのマネージャーにとって、意識的に育んでいくべき重要な力です。
現場で成果を出してきた「できる人」が、マネージャーに昇格する。これは多くの企業で自然な流れとなっています。しかしその一方で、「できる人=育てられる人」ではないという現実に、多くの企業が直面しています。
特に中小企業では、マネージャーも現場の第一線でプレイヤーとして活躍し続けるケースが大半です。目の前の業務に追われるなかで、部下を育てる余裕がなく、気づけば「任せられない」「育たない」「辞めてしまう」といった課題が表面化します。
従来のように現場で動き、成果を出すことが管理職のメインの役割だった時代から、今は人を育て、チームで成果を出すことが求められる役割へと大きくシフトしています。
この変化に対応するには、業務スキルや専門知識を高めるだけでは不十分です。マネージャー自身が、 自分が成果を出す視点に加えて、部下を育て、チームとして成果を出す視点を持つこと、つまり“育てる視点”を意識的に身につけていくことが欠かせません。
本記事ではマネージャー育成のスタート地点として、 なぜ今、こうした“育てる力”が求められるのか。 その背景と本質について整理していきます。
できる人を昇格させても、チームは育たない
マネージャー育成の現場では、「個人として優秀であること」と「人を育て、チームを導くこと」は、異なる力であるにもかかわらず、同じものとして扱われてしまうことがあります。現場で成果を出してきた人がマネージャーに就いたものの、部下が思うように育たない、チームとしての成果が伸びない――そんなケースは少なくありません。
一人のプレイヤーとしては申し分ないはずなのに、なぜその先の「チーム全体の成長」につながらないのか。その背景には、マネージャーに求められる力の変化と、現場で陥りやすい落とし穴が潜んでいます。
スキルがある人が、育成もできるとは限らない
マネージャーに昇格する人材の多くは、現場で成果を出してきた「できる人」です。高い専門スキルと実績があるからこそ、チームを率いる立場を任される――これは組織としてごく自然な流れです。
しかし、そこで見落とされがちなのが、「できる人が、育てる人になれるとは限らない」という事実です。マネージャーに昇格する人は、現場で優れた成果を出してきた「できる人」であることも多く、そのスキルや経験は、当然ながらチームにとって大きな資産です。
ただし、現場で活躍していたときの働き方や成果の出し方が、そのままマネージャー業務に活かせるとは限りません。
プレイヤーとマネージャーで、求められる役割は変わる
というのも、現場では自分が動いて成果を出すことが求められていた一方で、マネージャーになると、人を育て、チームとして成果を出すことが役割の中心になるからです。
このように、成果を出すという目的は変わらなくても、そのアプローチや視点は大きく変わるのです。その変化に対応するには、従来の専門スキルだけでなく、「部下をどう育てるか」「どうやって組織を動かすか」といった“育成力”が必要になります。
今のマネージャーには、専門性と育成力の両輪を備えた“ハイブリッド型のスキルセット”が求められる時代になっているのです。
「自分でやった方が早い」が続く現場のリスク
マネージャー本人が優秀であればあるほど、「任せるよりも、自分でやった方が早い」「説明に時間をかけるくらいなら、自分がやる」と考えてしまいがちです。
確かに、その場では効率的かもしれません。しかしそれを続けてしまうと、部下は育つ機会を失い、あらゆる業務がマネージャー1人に集中するようになります。すると、マネージャーの手が空かない限り新しい仕事が進まず、意思決定や対応のスピードも落ちてしまうといった状態に陥ります。
結果的に、チームの業務効率や生産性は伸び悩み、マネージャー自身が「組織の成長を止める要因」となってしまうのです。
「任せたつもり」が、育成につながらない理由
また、部下に任せても期待通りの成果が出ないとき、「結局自分でやった方が早い」とあきらめてしまうケースもあります。
ここで必要なのは、ただ任せるだけでなく、どこでつまずいているのか、どんな支援が必要なのかに向き合う姿勢です。「任せるスキル」や「育てる意識」がなければ、任せること自体がただの丸投げになってしまい、チームとしての生産性や自律性は育ちません。
マネージャーが抱え込みすぎることは、本人の負担になるだけでなく、 部下の成長機会を奪い、組織全体の未来を狭めてしまうリスクがあるのです。
マネージャー育成は「組織を育てる手段」である
マネージャーが育成の視点を持たずに働き続けると、部下の成長機会が失われ、やがてチーム全体の力も伸び悩むようになります。このような状態が複数の部署で起きていれば、企業全体の成長も頭打ちになってしまうでしょう。
だからこそ、マネージャー育成は個人のスキル開発ではなく、組織を育て、会社の未来をつくるための“経営施策”として捉える必要があるのです。
管理職のふるまいが、組織文化を形づくる
マネージャーの言動や関わり方は、日々の業務を通じて部下の姿勢や考え方に少しずつ染み込み、やがてチーム全体の動き方や雰囲気にも影響を与えていきます。
上司が「挑戦してもいい」「考えて動くことを歓迎する」という姿勢を日々の言動で示していれば、 部下は「自分の意見を言っていい」「まずはやってみよう」と感じるようになります。そうした意識の変化が行動に表れ、徐々にチーム内には自発性や前向きさが芽生えていきます。やがて、メンバー同士で学び合ったり、挑戦を応援し合うような雰囲気がチーム全体に広がっていくのです。
無言のメッセージが、行動を止めてしまうこともある
一方で、上司が目の前の業務に追われ、つい「自分でやった方が早い」と部下に任せる機会を奪ってしまっていると、部下は「自分から動く必要はない」「どうせ自分には任せてもらえない」と感じるようになります。
こうした無言のメッセージが積み重なると、部下たちは自発的な行動を控えるようになり、やがてチーム全体に“指示を待つことが当たり前”という空気が定着してしまうのです。つまり、マネージャーの育成スタンスは、組織の風土そのものをつくっているのです。
「育てる力」を持つ人が増えると、会社は強くなる
育成に関心を持ち、日々の関わりの中で「育てる姿勢」を示すマネージャーが一人でも増えていくと、その影響は少しずつ周囲に広がっていきます。丁寧なフィードバックや、部下の挑戦を支えるスタンスは、受け取った本人にとって「自分もこうして関わってもらった」という記憶となり、やがてその人がマネージャーになったとき、同じような関わり方をするようになります。
こうした育成の循環が生まれれば、チーム内のコミュニケーションが活性化し、互いに学び合い、高め合う文化が形成されていきます。
さらにこの文化が組織に根づけば、以下のような好循環が、組織のあちこちで起きていくのです。
- 部下の成長に目を向ける人が増える
- 心理的な安心感が生まれる
- 人が辞めにくくなり、チームに一体感が生まれる
マネージャーを育てるということは、単に役職者を増やすことではありません。「人を育てる力」が組織の中で連鎖していくことで、会社そのものが持つ力を底上げする取り組みなのです。
マネージャー育成の第一歩は「育成視点の追加」
マネージャーに昇格する人の多くは、現場で高い成果を上げてきたプレイヤーです。その専門性や行動力はチームにとって大きな戦力であり、組織としても期待を寄せる理由になります。
ただし、マネージャーに求められるのは、これまでのように自分の力で成果を出すことではなく、人を育て、チームで成果を出すことです。つまりマネージャーとは、より大きな成果を組織にもたらすために、「人を育てて動かす」という新たな役割を担う存在なのです。
この役割を果たすためには、プレイヤーとしての力に加えて、“育てる視点”を持つことが不可欠になります。単に意識を変えるのではなく、これまでの強みに「育成」という視点を加えること。その意識の拡張こそが、マネージャー育成の本質であり、組織の未来を育てる出発点なのです。
現場力に“育てる力”をかけ算する
マネージャーには、「専門性を活かして現場で成果を出す力」と「チーム全体を動かすマネジメント力」の両方が求められます。プレイングマネージャーでも、マネジメント専任者でも、そのバランスが求められる点に変わりはありません。
どちらの立場であっても重要なのが、“育てる力”を加えることです。ここで言う「育てる力」とは、単に知識を教えることではなく、部下の成長を促すために、関わり方や視点を意識的に持ち続ける力のことです。
具体的には、以下のような要素が含まれます。
- 相手の考えを引き出す、問いかける、認める、フィードバックする
- 状態や特性を見て、任せ方や接し方を柔軟に調整する
- 目の前の成果だけでなく、未来の成長を見据えた関わりをする
日常の関わりの中に、育成のチャンスがある
たとえば、こうした日常的な関わりの中に、育成のチャンスは数多くあります。
- 「なぜそう考えたのか?」と問いかけて思考を深めてもらう
- 成功体験を言語化して再現性を高める
- 小さな変化や努力を見逃さずに伝える
そしてそれは、部下の成長を後押しするだけでなく、マネージャー自身にとっても“育てる力”を磨く実践の場となります。目の前の成果と、未来の成長。その両方をつくり出せるのが、現場力に育てる力をかけ算したマネージャーの姿なのです。
育てることは、未来への投資
マネージャーに“育てる力”があるかどうかは、目の前のメンバーの成長だけでなく、企業の未来を左右する要素でもあります。
たとえば、挑戦の機会を与えられた部下は、失敗も経験しながら自ら考え、学び、成長していきます。その過程を見守り、支援し、必要なフィードバックを返す──この一連の関わりが、部下の「自ら動く力」を育て、チーム全体の力を底上げしていくのです。
逆に、「育成」に目が向かない組織では、いつまでも一部のマネージャーだけが成果を背負い続け、属人化が進み、チームの拡大や事業の成長にブレーキがかかります。だからこそ、人を育てられるマネージャーがどれだけいるかは、企業の将来に直結する重要な問いなのです。制度やツールよりも、日々の現場で誰がどう関わっているか。その“関わり方”こそが、会社にとって最も価値のある資産になります。
育てることは、時間も手間もかかる行為です。けれどその積み重ねが、未来の組織を支える力になっていきます。マネージャーを育てることは、今を回すための対処ではなく、未来をつくるための投資なのです。
まとめ
現場で実績を積んできた人がマネージャーに選ばれるのは、組織としてごく自然な判断です。ですが、マネージャーの役割は、成果を出すことから「人を育てて成果を生み出すこと」へと変化しています。
日々の業務に向き合いながらも、“育てる視点”を持ち続けることが、マネージャーとしての成長を促し、チームや組織の未来をひらく一歩になります。
育成は、今すぐ効果が出る即効薬ではありません。けれど、それに本気で向き合えるマネージャーが増えることで、組織の文化が変わり、人が育ち、辞めず、成果が出る「強いチーム」が育っていきます。マネージャー育成とは、会社の未来を育てる取り組み。まずはその“スタート地点”に立つことが、これからのマネージャーに求められているのです。
若手も管理職も、成長を実感できる研修を


「何年も同じ研修を繰り返しているけど効果が出ているのかな?」
「研修後の振り返りがないから、学びが定着しない気がして…」
「OJTをやって終わりだけど、それだけで成長を促すのは難しい」
若手や管理職の育成は、どの企業にとっても大きなテーマです。「新人がなかなか定着しない」「OJTだけでは限界を感じる」など、同じようなお悩みを抱える企業も少なくありません。
アクシアエージェンシーの研修サービスは、そうした声に寄り添いながら、現場で本当に役立つ力を育てることを大切にしています。
アクシアエージェンシーの人材育成・研修サービスの特徴
- 一度きりで終わらない研修設計で、学びを定着させる仕組みを提供
- 動画やフォローアップで、現場での行動変化まで伴走
- 採用支援から育成・定着まで一気通貫で見える人材課題を解決
- 法人営業や人事経験を持つ講師が担当し、現場に即した実践的な学びを提供
研修の形は企業ごとにさまざまです。まずは貴社の状況や課題をお聞かせください。最適な研修プランを一緒に考えていきます。お気軽にご相談ください。
監修者情報

ビジネスソリューションユニット 研修開発グループ
中井 美沙
株式会社アクシアエージェンシー新卒入社。求人広告営業として大手中小企業の採用活動に携わる。2020年人事コンサルティング会社へ出向し研修企画実施や人事評価制度運営などに従事。2022年に研修開発部立ち上げに参加。人事部と兼務しながら社内の人材育成、人事評価制度運用、人事面談、社内外の研修企画実施などに従事。国家資格キャリアコンサルタント取得。株式会社アナザーヒストリー プロコーチ養成コーチングスクール修了。



