介護の仕事は、人の暮らしを支える専門職です。身体介助や生活支援といった技術だけでなく、利用者や家族の思いに寄り添う人間力も欠かせません。しかし現場では、「日々の業務に追われて、自分の成長を振り返る時間がない」「これから先、どうキャリアを築いていけばいいのか分からない」といった声も多く聞かれます。

一生懸命に働いているのに、目の前の仕事ばかりになってしまう。 そんな時こそ、原点を見つめる時間が必要です。自分を理解し、課題を整理し、将来を描く——このプロセスが自信を育て、チームへの貢献意識を高めます。

【育つ、つながる、介護の職場づくり】第5回では、専門職としての成長を支える3つの視点――自己理解・ロジカルシンキング・キャリアパス――をもとに、 スタッフの成長意欲を引き出すための考え方と、現場で活かせる研修のヒントを紹介します。

キャリア支援が必要とされる背景

介護福祉士として働く人の多くは、利用者に寄り添いながら日々の業務に力を注いでいます。その一方で、「自分の将来像が描けない」「キャリアアップといっても何を目指せばいいのか分からない」という声も少なくありません。

令和5年度の老人保健事業推進費等補助金事業による調査では、介護福祉士としてのキャリアイメージを持っている人は4割以下にとどまり、6割以上が将来の方向性を明確に描けていないことが示されています。

その理由として、「どのように考えたらいいかわからない」「考えても自分ではどうにもできない」といった回答が多く見られます。さらに、「キャリアアップに関心がない」という声も一定数ありますが、その背景にはキャリアをイメージするための環境やきっかけが十分に整っていないという課題があると考えられます。

つまり、関心が低いのではなく、考え方がわからないまま日々の業務に追われている現状が浮かび上がります。

成長したい気持ちはあるのに、道筋が見えない現実

一方で、「介護実践者として知識・技術を高めたい」、「職場や地域の介護力向上に役立てたい」といった回答が示すように、多くの介護福祉士は確かな成長意欲を持っています。

現場の課題は意欲の不足ではなく、どのようにキャリアを描けばいいのか分からないまま日々を過ごしているということ。キャリアを考える時間と機会がなければ、せっかくの専門職としての力も伸ばしづらくなります。

こうした背景から、いま介護現場で求められているのは、「キャリアをどう描くかを一緒に考える育成」です。スキルアップにとどまらず、自分の役割や存在意義を見つめ直す機会を持つことが、専門職としての自信を育て、離職を防ぐ第一歩になります。

自己理解の時間をつくる──なぜ働くのかを再確認する

介護職の専門性を育てるための最初のステップは、スタッフ自身が「自分を知る」ことです。日々の業務に追われる現場では、目の前の対応に精一杯になり、「自分はなぜこの仕事をしているのか」を考える余裕がなくなりがちです。

なぜ自己理解が重要なのか

「この仕事を選んだ理由」や「やりがいを感じる瞬間」を言葉にできる人は、困難な場面に直面してもぶれない軸を持っています。一方で、目的を見失った状態では、同じ業務をこなしていても達成感を感じにくく、「何のために働いているのか分からない」という状態に陥りやすくなります。

自己理解の時間を設けることで、

  • 仕事へのモチベーションを保ちやすくなる
  • 自分の強みを自覚し、チームでの役割を見つけやすくなる
  • 将来のキャリアを前向きに考えるきっかけが生まれる

といった効果が期待できます。

また、自己理解は内省にとどまらず、他者との対話の中で深まるものです。面談や研修など、誰かと話しながら自分を言語化する機会を設けることが、「自分が何を大切にしているのか」「どんな介護職になりたいのか」を明確にする第一歩になります。

自己理解を深めるためのポイント

実際の職場で「自己理解の時間」をつくるには、特別な制度を整えるよりも、日々の業務の中に振り返りの習慣を組み込むことが効果的です。

  • キャリア面談で原点を確認する
    年1回の面談時に「入職のきっかけ」「やりがいを感じた経験」を振り返る質問を入れることで、スタッフ自身が初心を言葉にするきっかけをつくれます。
  • ミーティングで「うれしかったこと」を共有する
    チームミーティングの最後に、1分だけ今日のよかった出来事を話す時間を設ける。小さな成功体験を共有することで、仕事の意味を再確認できます。
  • 研修で「自分の強み」を棚卸しする
    自己分析ワークを通じて「自分の得意なケア」「大切にしている価値観」を明確にする。それがチーム内での役割認識にもつながります。

こうした取り組みは、一見小さなことのようですが、スタッフの中に自分の言葉で仕事を語れる軸を育てます。それが、介護の現場における「専門職としての誇り」の土台になるのです。

ロジカルシンキングを身につける──課題を整理し、チームで共有する力を育てる

介護の現場で専門職として成長するためには、技術や知識だけでなく、「状況を整理し、根拠をもって考え、伝える力」が欠かせません。それが、ロジカルシンキング(論理的思考)です。

ロジカルシンキングは、状況を整理し、根拠をもって伝えるための技術です。事実・目的・根拠で話せる人は対立を避け、チームを前に進められます。

なぜロジカルシンキングが重要なのか

介護職は、単にケアを提供するだけでなく、チームや他職種と協働しながら、利用者の生活を支える専門職です。現場では、経験や感覚に基づく判断が多く、意見のすれ違いや感情的な衝突が起きやすいのも事実です。

たとえば、同じ利用者への対応について「もっと優しく」「安全を優先すべき」と意見が分かれることがあります。このような場面で、事実・目的・根拠を整理して話せる人は、感情的な対立を避け、チームを前向きに導くことができます。

  • 自分の考えを客観的に整理し、根拠をもって伝えられる
  • 他職種との連携や会議の場でも意見を説明・共有しやすくなる
  • 判断や提案の説得力が増し、専門職としての評価が高まる

ロジカルシンキングを身につけることでこのような力が身につき、日々のコミュニケーションの質を高め、「信頼される専門職」としての土台を築きます。

つまり、ロジカルに考える力は、キャリアの基礎となる説明力と信頼構築力です。この力を磨くことが、将来的なリーダー職や教育担当へのステップアップにもつながります。

チームでロジカルシンキングを根づかせるポイント

ロジカルシンキングは、個人のスキルにとどまらず、チーム全体で共有すべき考え方の文化です。一人が論理的に整理しても、周囲が感情や思い込みで判断してしまえば、結論はかみ合いません。だからこそ、「事実で話す」「目的を明確にする」という姿勢を、チーム全員で意識することが大切です。

ポイントは、「会話」「会議」「振り返り」などの現場コミュニケーションの場面に、ロジカルな思考を少しずつ浸透させることです。

  • 事実ベースで話す文化をつくる
    ミーティングや申し送りで、「〇〇さんが言っていた」ではなく、「記録上ではこうだった」「実際の行動はこうだった」という事実から話し始める。
    日常的に根拠をもとに話す習慣がつくと、感情的なすれ違いが減ります。
  • 「目的は何か?」を確認し合う
    話し合いが迷走しそうになったときは、誰かが「そもそもの目的は?」と声をかける。この一言が、議論の軸を戻す合図になります。目的を共有する文化は、現場判断の精度を高める基礎です。
  • なぜ?をチームで掘り下げる
    トラブルや課題が起きたとき、責任を追及するのではなく、「なぜそうなったのか」を全員で考える場をつくる。 原因を共有し、仕組みとして改善する力がチームを育てます。

このように、考え方を共有し合うチームでは、感情的なすれ違いが減り、建設的な議論が生まれやすくなります。また、「どうすればより良くできるか」を一緒に考える風土ができることで、スタッフ一人ひとりが主体的に動ける現場に変わります。

ロジカルシンキングは、個人のスキルではなく組織の共通言語。チーム全員が「事実・目的・根拠」で話す文化を持つことが、専門職としての信頼と協働を強化する土台になります。

キャリアパスを可視化する──将来像を共有し、成長意欲を引き出す

どんなに意欲のあるスタッフでも、将来の道筋が見えなければ、「このまま続けて大丈夫なのかな」と不安を感じてしまいます。とくに介護業界では、日々の業務が忙しく、長期的なキャリアを意識する時間を持ちにくいのが現状です。

なぜキャリアパスの可視化が重要なのか

公益財団法人介護労働安定センターの調査でも、「キャリアアップの道筋が明確でない」「将来の見通しが立たない」と感じて離職するケースが多く報告されています。

一方で、「キャリアアップの仕組みがある」「成長を実感できる」職場ほど、スタッフの定着率が高い傾向にあります。つまり、キャリアパスの可視化は離職防止の施策であると同時に、成長促進の仕組みでもあるのです。

また、キャリアの見通しを示すことは、「自分は組織の中でどう貢献できるのか」を考えるきっかけにもなります。スタッフ一人ひとりが、自分の強みや得意分野を生かしながら、目指す姿を描けるよう支援することが、専門職としての自信を育てることにつながります。

チームで取り組むキャリアパスの見せ方のポイント

  1. キャリアのステージを明確にする
    「初任者→中堅→リーダー→マネジメント」といった段階を設定し、それぞれのステージで求められるスキル・役割・期待を明文化する。スタッフが自分が今どこにいるのかを把握できるようにすることが第一歩です。
  2. 評価だけでなく成長実感を伝える
    面談や日報の中で、「できるようになったこと」「任せられる範囲が広がったこと」を具体的に伝える。評価されるだけでなく成長を感じられる場面が、次の挑戦への意欲を引き出します。
  3. 目指す姿を共有する機会をつくる
    定期的なキャリア面談やミーティングで、「3年後どうなっていたい?」を語り合う。管理者が一方的に提示するのではなく、本人の希望や価値観を踏まえて一緒に描く姿勢が重要です。
  4. キャリアの多様な道を見せる
    リーダー職だけがゴールではなく、「専門性を深める」「教育担当として人を育てる」など、さまざまな成長モデルを示すことで、自分に合ったキャリアをイメージしやすくなります。

キャリアパスを示すことは、単に昇格ルートを見せることではありません。スタッフが「自分の可能性を信じられる職場」をつくることです。将来の方向性が見えると、

  • 今の仕事に意味を感じやすくなる
  • 目標に向かって努力する意識が高まる
  • チーム内で成長を支え合う風土が生まれる

キャリアパスの可視化は、スタッフの安心感と成長意欲を両立させる仕組みづくり。それが、専門職としての自信とチームの定着力を高める大きな要因になります。

専門職としての成長を支える「考える力」「伝える力」「導く力」

専門職の成長は、技術だけでは完成しません。どれだけ経験を重ねても、「自分の考えを整理し、相手に伝える力」や「チームの中で信頼関係を築く力」がなければ、その専門性を十分に発揮することはできません。

弊社が実施している専門職向けコミュニケーション・マネジメント研修では、介護職としての専門スキルに考える・伝える・協働する力を掛け合わせ、現場のパフォーマンスと定着率を高めるための実践的なプログラムを展開しています。

このプログラムでは、日々の業務や対人場面で専門職としての自信を高めるために、次のようなスキルや視点を実践的に学びます。

  • 自己理解と相互理解の促進
    自分の価値観や強みを理解し、他者との違いを尊重する対話スキルを身につけます。「感情」ではなく「意図」で関わることで、衝突を減らし、協力的な関係性を築く力を養います。
  • ロジカルシンキングと伝達力の強化
    なんとなくではなく、なぜそう考えるのかを整理し、根拠をもって説明する力を育てます。 現場での報告・相談・連携の質を高め、他職種やチームから信頼される伝え方を実践します。
  • 課題整理と共有のスキル
    事実と感情を切り分け、課題を構造的に整理する思考法を学びます。チーム内で問題点を共有し、解決に向けて協働できる考える力を鍛えます。
  • キャリア意識と自己成長の促進
    「自分は何を大切に働きたいのか」「今後どうなりたいのか」を可視化し、専門職としてのキャリアビジョンを描く時間を設けます。目標を持つことで、仕事へのモチベーションと定着を高めます。
  • 信頼関係を築くコミュニケーション
    相手の立場に立ち、意図を汲み取る聴く力を高めます。相互理解を通して、心理的安全性のあるチームづくりを目指します。

研修を受けてみて、実際の変化と受講者の声

ある企業では、部門間の連携不足や、顧客対応における発信力の弱さが課題となっていました。

そこで、社員一人ひとりの専門スキルを活かすため、「相互理解」と「対話の質向上」をテーマにした研修を実施。タイプ別コミュニケーションや実践ワークを通じて、相手に合わせて伝える力を養いました。

受講後には「相手を意識して話せるようになった」「意見交換がしやすくなった」といった声が寄せられ、社内のコミュニケーションが活性化。経営層からも「社内の変化が感じられた」と好評で、専門性を活かす伝える力の重要性が再認識されるきっかけとなりました。

キャリアを描ける職場が、スタッフを育てる。

介護の仕事は、人の暮らしを支える専門職であると同時に、仲間と協力しながら価値を生み出すチームの仕事でもあります。スタッフ一人ひとりが自分を理解し、論理的に考え、将来を描けるようになること。それは、現場で自信を持って意見を伝え、より良いケアを実現するための大切な土台です。

本記事で紹介した3つの視点――自己理解・ロジカルシンキング・キャリアパスの可視化は、スタッフの成長を支えるうえで欠かせないキーワードです。この3つを意識した育成を続けることで、やらされる仕事から自ら考えて動く仕事へと、現場の姿が変わっていきます。

専門職としての誇りと、人としての温かさ。その両方を育てることが、スタッフの定着と組織の成長につながります。

若手も管理職も、成長を実感できる研修を

「何年も同じ研修を繰り返しているけど効果が出ているのかな?」
「研修後の振り返りがないから、学びが定着しない気がして…」
「OJTをやって終わりだけど、それだけで成長を促すのは難しい」

若手や管理職の育成は、どの企業にとっても大きなテーマです。「新人がなかなか定着しない」「OJTだけでは限界を感じる」など、同じようなお悩みを抱える企業も少なくありません。
アクシアエージェンシーの研修サービスは、そうした声に寄り添いながら、現場で本当に役立つ力を育てることを大切にしています。

アクシアエージェンシーの人材育成・研修サービスの特徴

  • 一度きりで終わらない研修設計で、学びを定着させる仕組みを提供
  • 動画やフォローアップで、現場での行動変化まで伴走
  • 採用支援から育成・定着まで一気通貫で見える人材課題を解決
  • 法人営業や人事経験を持つ講師が担当し、現場に即した実践的な学びを提供

研修の形は企業ごとにさまざまです。まずは貴社の状況や課題をお聞かせください。最適な研修プランを一緒に考えていきます。お気軽にご相談ください。

24時間受付中
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監修者情報

株式会社アクシアエージェンシー
ビジネスソリューションユニット 研修開発グループ

中井 美沙

株式会社アクシアエージェンシー新卒入社。求人広告営業として大手中小企業の採用活動に携わる。2020年人事コンサルティング会社へ出向し研修企画実施や人事評価制度運営などに従事。2022年に研修開発部立ち上げに参加。人事部と兼務しながら社内の人材育成、人事評価制度運用、人事面談、社内外の研修企画実施などに従事。国家資格キャリアコンサルタント取得。株式会社アナザーヒストリー プロコーチ養成コーチングスクール修了。