『育つ、つながる、介護の職場づくり』シリーズでは、採用した人材が長く活躍できる職場をつくるための“育成と定着”のポイントを、 テーマごとにわかりやすく紹介していきます。
第1回のテーマは、新人スタッフの「育成」と「フォロー体制」。
介護業界では「せっかく採用しても、すぐ辞めてしまう」という悩みが絶えません。「人間関係がうまくいかない」「思っていた仕事と違った」──その背景には、“育成体制の不備”と“フォロー不足”があることが分かっています。
今回は、採用した人材が辞めずに育つ職場づくりのために欠かせない、育成・フォロー体制の整え方を紹介します。
なぜ新人は辞めてしまうのか?離職の裏にある“初期不安”
介護業界においては、若手スタッフや勤続年数の浅いスタッフの離職が依然として深刻な課題です。
離職者の内訳を見ると、勤続3年未満で離職する人が全体の6割を超え、特に入職1年未満で離職する人も4割近くにのぼります。 採用しても定着する前に辞めてしまうケースが多く、いかに早期に“職場に馴染める環境”を整えられるかが大きな課題となっています。
公益財団法人介護労働安定センターの「令和6年度 介護労働実態調査」によると、 訪問介護員と介護職員の離職率は12.4%と報告されており、定着支援の重要性が一層高まっていることは明らかです。
その背景には、職場内の人間関係やコミュニケーションの課題があります。同調査によると、仕事を辞めた理由として 「職場の人間関係に問題があったため」と回答した人が24.7%で最も多く、 「他に良い仕事・職場があったため(18.5%)」「勤務先の事業理念や運営のあり方に不満があったため(17.6%)」を上回っています。
さらに、その人間関係の問題の具体的な内容をみると、
- 「上司や先輩からの指導や言動がきつかったり、パワーハラスメントがあった」49.1%
- 「上司の業務指示が不明確、リーダーシップがなかった」36.2%
- 「仕事の進め方に関する上司や同僚との意思疎通がうまくいかなかった」35.5%
と、上司や指導者の関わり方、職場内のコミュニケーション不足が中心的な要因となっています。
つまり、“人間関係の悪化”の多くは、日常のやり取りや指導の仕方に起因しているということです。「教え方がバラバラ」「相談しづらい」「意見を言いにくい」といった小さな行き違いが、新人にとっては“居づらさ”や“自分には向いていないのかもしれない”という不安につながりやすいのです。
こうした不安や戸惑いは、入職後の数週間から数か月の間に集中して発生します。新人がまだ仕事に慣れないうちに孤立したり、ミスをきっかけに自信を失ってしまうと、 「この仕事は自分には合わない」と感じてしまうケースも少なくありません。
新人が“安心して働ける”育成体制の3つのポイント
新人が早期に辞めてしまう背景には、仕事の難しさよりも、人との関係や教え方の不一致が大きく影響しています。 一方で、入職後の数か月をどう支えるかによって、定着率は大きく変わります。
ここでは、現場で今日から実践できる“新人が安心して働ける職場づくり”の3つのポイントを紹介します。
① “教えっぱなし”にしない仕組みをつくる
新人教育で多いのが、「一度教えたら覚えてほしい」という意識。
しかし実際は、覚えたように見えても、理解できていない・自信が持てていないケースが多くあります。 特に介護現場では、業務が立て込む中で“教える時間”が十分に取れず、 指導が場当たり的になってしまうことも少なくありません。
そこで重要なのが、教えた後をどう支えるかです。たとえば、1日の終わりに今日できたこと・できなかったことを一緒に振り返る時間を設ける、 「次回までにここをやってみよう」と小さな目標を設定するなど、 確認とフォローを仕組み化することで、教えた内容が定着しやすくなります。
ポイント
- 1回教えたら終わりではなく、“繰り返し伝える・確認する”文化をつくる
- 「分からない」と言いやすい雰囲気を整える
- 教える側も“自分の伝え方を振り返る”習慣をもつ
② “任せる”前に“支える”段階を設ける
新人に早く慣れてほしいという思いから、任せることを急いでしまうケースもあります。 しかし、新人が不安を抱えたまま現場に立つと、ミスや失敗をきっかけに“自信喪失”や“委縮”につながってしまうことも。
大切なのは任せる前に、支える段階を挟むこと。たとえば、最初のうちは「一緒に行う」→「確認して任せる」→「一人で任せる」と、 段階的に責任の範囲を広げていくイメージです。
この過程で、「ここまでできている」「次はここを意識しよう」と肯定的なフィードバックを伝えると、 新人の安心感と成長意欲が大きく変わります。
ポイント
- 「任せる=放任」ではなく、「支える→見守る→任せる」の流れを意識
- “できたこと”を言葉で伝えて自己効力感を高める
- 一緒に現場を回る時間を、単なるOJTではなく“安心の場”にする
③ “チームで育てる”意識をもつ
新人教育は、特定の指導者だけが担うものではありません。職場全体で関わることで、教え方や接し方の偏りを防ぎ、 新人が「誰に聞いても大丈夫」と思える環境をつくることができます。
- 日報や申し送りで“新人の成長ポイント”を共有する
- 新人の悩みをキャッチできる“サブメンター”を配置する
- 定期的に「新人フォロー会」を開き、チーム全員で関わり方を見直す
このような取り組みが効果的です。“チームで育てる”意識をもつことで、教える側の負担も減り、職場全体の関係性も良好になります。
ポイント
- 一人の教育係に負担を集中させない
- 「見守る」「声をかける」など、全員が関われる形を整える
- 育成を“チーム文化”として定着させる
新人が安心して働ける職場には、「教え方」「任せ方」「関わり方」に一貫した考え方があります。 “教える側”が意識を少し変えるだけで、新人の感じる安心感は大きく変わります。
焦らず・孤立させず・チームで支える――その積み重ねが、離職を防ぎ、長く続けられる職場づくりにつながります。
現場リーダーを支える「育成担当者研修」という選択肢
新人が安心して働き続けるためには、最初に関わる育成担当者の対応が大きく影響します。どう教えるかだけでなく、どう関わるか、どう支えるかという視点を持つことが、定着につながる関わり方の鍵です。
育成担当者研修では、現場の声や実情をもとに、次のようなスキルや視点を実践的に学びます。
- 伝え方・聴き方の工夫
業務を「伝える」だけでなく、相手に“伝わる”ように話す力を養います。また、新人の不安や戸惑いに気づくための「傾聴」の基本や、受け止めやすい声かけのポイントも習得します。
- フィードバックと動機づけ
ミスや指摘の場面で関係が悪化しないための“前向きな伝え方”を身につけます。できたことを言語化し、自己効力感を高めるフィードバックの技術を学びます。
- 新人のタイプに応じた関わり方
性格診断ツールなどを活用し、自分と新人それぞれの特性を理解したうえでの関わり方を検討。指導方法の「引き出し」を増やすことで、関係づくりがスムーズになります。
- フォロー面談の進め方と安心感の育て方
業務の振り返りや悩みの共有ができるフォロー面談の基本を学びます。「話しやすい雰囲気づくり」や「安心感を育む対話の進め方」を体験を通じて習得します。
実際の変化と受講者の声
ケース①:性格傾向を見える化し、関係づくりを支援
ある研修では、性格診断ツールを使い、自分と新人の性格傾向を見える化するワークを実施。その結果、「自分とは真逆のタイプでも、どう関わればよいかが具体的に想像できた」「相性の不安があったが、フォローの仕方に工夫できると思えた」といった声がありました。
こうした視点を持つことで、新人への関わり方に“余裕”や“前向きさ”が生まれたという変化が見られました。
ケース②:実践的なロールプレイで関わりを振り返る
別の研修では、実際の育成場面を想定したロールプレイやペアワークを通じて、「言いづらいことの伝え方」や「沈黙への対応」などを体験的に学びました。

「感覚でやっていた育成を理論的に整理できた」
「心理的安全性の重要性を改めて認識し、自分の言動を見直すきっかけになった」
「他の育成担当者と考えを共有できたことで、職場内での指導方針が揃ってきた」
受講者からはこのような声があり、関わりの振り返りと共通認識の形成が職場全体の育成力の向上にもつながっています。
育成担当者研修は、「教えるスキル」だけでなく、「育てる視点」や「支える工夫」を持ち帰る場です。新人が安心して成長できる職場をつくるために、まずは“教える人”の関わり方から見直してみませんか。
まとめ:育てる仕組みが“辞めない職場”をつくる
新人が安心して働き続けられる職場には、共通した特徴があります。それは、人が人を支える仕組みがあることです。
採用段階でどんなに良い人材が集まっても、入職後の教育やフォローが不十分であれば、早期離職につながってしまいます。逆に、教える人が“どう伝え、どう関わるか”を意識できるようになると、新人は「自分はここで成長できる」と感じ、長く働きたいという気持ちが芽生えます。
教育の主軸は、OJT担当者や先輩スタッフなど、日々現場で関わる人たちです。だからこそ、「育てる人」を育てることが、現場全体の安定と定着につながります。
弊社の育成担当者研修では、教える・支える・フィードバックする力を体系的に学ぶことで、新人が孤立しない環境をつくることができます。こうした“教える力”の底上げが、結果としてチーム全体の関係性を良くし、 働きやすい職場文化の定着へとつながります。
採用の次は、育成へ。人が育ち、人がつながる職場をめざして、育成担当者研修をきっかけに、関わり方を見直してみてはいかがでしょうか。現場に寄り添う学びが、定着と安心を育てていきます。
若手も管理職も、成長を実感できる研修を


「何年も同じ研修を繰り返しているけど効果が出ているのかな?」
「研修後の振り返りがないから、学びが定着しない気がして…」
「OJTをやって終わりだけど、それだけで成長を促すのは難しい」
若手や管理職の育成は、どの企業にとっても大きなテーマです。「新人がなかなか定着しない」「OJTだけでは限界を感じる」など、同じようなお悩みを抱える企業も少なくありません。
アクシアエージェンシーの研修サービスは、そうした声に寄り添いながら、現場で本当に役立つ力を育てることを大切にしています。
アクシアエージェンシーの人材育成・研修サービスの特徴
- 一度きりで終わらない研修設計で、学びを定着させる仕組みを提供
- 動画やフォローアップで、現場での行動変化まで伴走
- 採用支援から育成・定着まで一気通貫で見える人材課題を解決
- 法人営業や人事経験を持つ講師が担当し、現場に即した実践的な学びを提供
研修の形は企業ごとにさまざまです。まずは貴社の状況や課題をお聞かせください。最適な研修プランを一緒に考えていきます。お気軽にご相談ください。
監修者情報

ビジネスソリューションユニット 研修開発グループ
中井 美沙
株式会社アクシアエージェンシー新卒入社。求人広告営業として大手中小企業の採用活動に携わる。2020年人事コンサルティング会社へ出向し研修企画実施や人事評価制度運営などに従事。2022年に研修開発部立ち上げに参加。人事部と兼務しながら社内の人材育成、人事評価制度運用、人事面談、社内外の研修企画実施などに従事。国家資格キャリアコンサルタント取得。株式会社アナザーヒストリー プロコーチ養成コーチングスクール修了。



