ハラスメント対策として、制度やルールの整備を進めている企業は少なくありません。しかし実際の現場では、「制度はあるのに不信感が生まれる」「指導が誤解されてしまう」といった声が絶えません。

このシリーズでは、関係性の質に目を向けることが、組織を本質的に守るハラスメント対策につながるという視点から、現場で起こるすれ違いや、信頼関係の築き方、実践につながる対話のあり方を5回にわたって掘り下げていきます。

第3回のテーマは、すれ違いを防ぐ具体的なコミュニケーションのかたち。「言ったつもり」「わかってくれるはず」という思い込みから、職場では多くの誤解が生まれています。今回は、上司と部下の間に起きる“認識のズレ”の構造をひもときながら、関係を壊さずに思いを伝えるための関わり方や、日常のふるまいが信頼を育てていくプロセスを掘り下げていきます。

職場でのすれ違いや誤解は、「そんなつもりじゃなかった」「ちゃんと伝えたつもりだった」という“つもり”の積み重ねから起きることがあります。

しかしその背景には、誰かの意図や能力の問題ではなく、立場や視点の違いによる自然なズレが隠れていることも少なくありません。上司と部下では、見えている情報も、優先していることも、判断の背景も異なります。

だからこそ、同じ言葉でも受け取り方に差が生まれ、思いがけない誤解につながってしまうのです。この回では、「なぜ伝わらないのか」「なぜわかってもらえないのか」といったすれ違いの構造を紐解きながら、関係をこじらせずに対話を重ねていくための具体的な関わり方について掘り下げていきます。

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すれ違いはなぜ起きる?──“言ったつもり”の正体

職場でよく聞かれる、「言ったつもりだった」「そんな意味じゃなかったのに」という言葉。ハラスメントの背景にも、こうしたすれ違いが潜んでいるケースは少なくありません。

しかしその多くは、誰かに悪意があったわけではなく、立場や視点の違いによって自然に起きているものです。上司と部下では、見えている情報や担っている役割が違うため、同じ言葉でも異なる意味に受け取られることがあります。

つまり、伝わらないのは「伝え方が悪いから」ではなく、そもそも“伝わりにくい構造”の中でやりとりをしているということ。ここでは、すれ違いが起きる背景を掘り下げながら、どのようにしたら誤解や衝突を防げるのか──そのヒントを探っていきます。

上司と部下は“違う世界”を見ている

上司と部下のすれ違いは、「立場が違えば、見えている景色も違う」という、ごく自然な前提から生まれます。

同じ言葉でも、受け取り方は変わる

たとえば、上司が部下に対して「この件、進捗どうなってる?」と声をかけたとします。上司にとってはごく日常的な確認のつもりでも、部下の側では、「急かされている」「遅れていることを責められている」と受け取られてしまうことがあります。

このとき、部下の頭の中では、次のような変換が起きています。

  • 「進捗を聞かれた」→「まだ終わっていないことを問題視されているのでは」
  • 「上司が気にしている」→「自分の動きが遅いと思われているのかもしれない」
  • 「報告しなきゃ」→「でも、ちゃんと進んでない…。どう思われるだろう」

こうした解釈のズレは、単なる誤解ではありません。

立場の違いが、視点のズレを生む

その背景には、立場による視点や情報の非対称性があります。上司は、複数のプロジェクトやメンバーを同時に見ており、全体のバランスやスケジュール感を把握する必要があります。一方の部下は、目の前の業務や直近のタスクに集中しており、進捗が思うようにいかないことに焦りやプレッシャーを感じていることも少なくありません。

このように、双方が見ているものや気にしていることが異なるからこそ、同じ言葉でもまったく違う意味に受け取られるのです。

重要なのは、自分にとって自然な言い方が、相手にも自然とは限らないという認識を持つこと。“言わなくても分かる”は、ほとんどの場合、幻想にすぎません。だからこそ、言葉を交わすときには「相手にどう届くか」を想像すること。視点の違いを前提にしたコミュニケーションこそが、すれ違いを防ぐ第一歩になるのです。

なぜ「わかってくれない」と感じるのか

上司と部下のすれ違いが生まれるのは、単に「伝え方が悪い」「理解力が足りない」といった個人の問題ではありません。そこには、組織の中にある構造的なギャップが横たわっています。

たとえば、上司が部下にアドバイスをしても、部下から「結局、何が言いたいんだろう?」「ちょっとズレてる気がする…」と受け止められることがあります。あるいは逆に、部下が「今、少し難しさを感じていて…」と相談しても、上司が「そんなの気にしなくていいよ」「とりあえずやってみたら?」と返してしまい、かえって壁を感じさせてしまうこともあります。

見えている“背景情報”が違う

こうしたズレの根っこにあるのが、「背景情報」と「見えている世界」の違いです。上司は、次のような文脈を踏まえて判断していることがあります。

  • 過去に似たケースがあった
  • 上層部の意向がある
  • チーム全体の状況を見ている

一方で、部下は目の前の状況しか知らず、上司の判断の前提が見えていません。

だからこそ、上司の言葉が「なぜそうなるのか」がわからず、腑に落ちない。部下の言葉も、上司からすれば「なぜそんなところでつまずくのか」が見えにくいのです。

時間軸の違いも、ズレを生む

また、時間軸の違いも見落とされがちなポイントです。上司は中長期的な視点で見ているのに対し、部下は「今日・明日をどう動くか」という短期にフォーカスしている。このズレがあると、アドバイスやフィードバックの意図が噛み合いません。

  • 「育成のつもりで言ったのに、否定されたと受け取られた」
  • 「親身に聞いているつもりだったのに、軽く流されたと受け取られた」

そういった食い違いが、日々の中で積み重なっていきます。すれ違いの多くは、単なる言葉の選び方だけでなく、「どこを見て話しているか」の違いから起きています。

つまり、伝えたいことの“中身”だけでなく、「なぜそう思うのか」「どんな視点から話しているのか」という背景や視点そのものを言葉にする必要があるのです。

上司は判断やアドバイスの根拠を補足しながら伝えること。部下は、「なぜ今、そう感じているのか」を主観のままに話してみること。お互いの“捉えている状況や背景”が違うことを前提に、視点の橋渡しをする対話が、ズレの修復には欠かせません。

関係を壊さない関わり方──否定しない対話の技術

相手のためを思って言ったことが、なぜか関係をぎくしゃくさせてしまう。そんな経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。誤解やすれ違いの背景には、“伝え方”だけでなく“受け止め方”のズレがあります。

だからこそ重要なのは、相手を否定しないまま、率直に意見や違和感を伝え合える関わり方。このパートでは、感情に配慮した伝え方や、対話を壊さないリアクションのあり方など、信頼関係を築くための具体的なコミュニケーションのポイントをひもといていきます。

感情を扱えるリーダーが信頼を得る

相手が何かを伝えてきたとき、私たちはつい「それは違う」「でもさ…」と“正しさ”で応じてしまいがちです。しかし、関係性を深めたいときにまず必要なのは、「事実」よりも「感情」を受け止める姿勢です。

まずは「感情」を受け止める

たとえば、部下が「ちょっと最近プレッシャーが強くて…」とこぼしたとき、「でも結果出してるよね」と返してしまうと、「ちゃんと聞いてもらえてない」と感じさせてしまうこともあります。その一言が、相手の“本音を話そうとする気持ち”を静かにしぼませてしまうのです。

物事の感じ方は人それぞれだからこそ、まずは「そう感じたんだね」と一度受け止めることが大切です。

  • 「そんなふうに感じてたんだね」
  • 「話してくれてありがとう」

気持ちをそのまま認めるひと言が、「ここなら話していいんだ」と思える空気をつくります。

これは、甘やかすこととは違います。一度受け止めたうえで、「その背景にはどんなことがあるんだろう?」「じゃあ一緒にどうしたらいいか考えよう」と話を展開していけば、対話は建設的に進んでいきます。

反応的に言い返すのではなく、理解しようと耳を傾ける。感情を扱えるリーダーのふるまいは、部下にとって“関係性を壊さずに話せる相手”として映ります。そしてそれが、信頼の起点となっていくのです。

「正しさ」より「伝わり方」も意識する

職場で指摘やアドバイスをする場面は日常的にありますが、その言葉が“正しいかどうか”だけに意識が向いてしまうと、思わぬすれ違いが生まれることがあります。

“正しい指摘”でも、傷つくことがある

たとえば、「もっと丁寧にやってほしい」「このやり方じゃミスが出やすいよ」といった一言。上司としては“必要な改善点”を伝えているつもりでも、部下にとっては「せっかく自分なりに考えてまとめたのに、全否定された」と感じられてしまうことがあります。

“内容としては正しい指摘”であっても、その言葉が相手の努力や意図を汲まずに放たれたものであれば、「責められた」「軽視された」と受け止められ、関係性にすれ違いが生じてしまうのです。

「どう言うか」より「どう届くか」

こうした行き違いを防ぐには、「どう言うか」より先に、「どう伝わるか」に意識を向けることが大切です。たとえば、

  • 「こういう進め方もあるけど、どう思う?」
  • 「ここ、どういう意図でこうしたの?」

と問いかけの形にするだけで、相手が“指示”ではなく“対話”として受け取りやすくなります。

また、何かを伝えたあとのリアクションも重要です。「なるほど、そう考えたんだね」と一度受け止めるだけで、話しやすい空気が生まれます。相手をねじ伏せるような言葉では、表面的には従っても、本音やアイデアは出てこなくなってしまいます。一方で、「伝える=一緒に考える」という姿勢があれば、指摘も前向きなやりとりになります。

伝えた内容よりも、相手にどう届くか。その感覚を持ってふるまうことが、関係性を壊さない対話につながり、結果として誤解やハラスメントの芽を摘むことにもなるのです。

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日常のふるまいが文化になる──小さな行動の積み重ね

「こうしたほうがいい」と頭でわかっていても、実際に行動に移せるかどうかは別の話です。そして、組織の空気や文化というのは、一人ひとりの“ちょっとしたふるまい”の積み重ねによって形づくられていきます。ちょっとした声かけや、何気ないリアクション。一見すると些細に思える行動が、対話のハードルを下げ、関係性の土台を強くしていきます。

このパートでは、そうした小さなふるまいがどのように組織の空気を変え、結果としてハラスメントの予防につながっていくのかを見ていきます。

小さな声かけと反応が空気を変える

たとえば、何か報告を受けたときに「うんうん」「なるほどね」と相づちを打つだけでも、相手には「ちゃんと聞いてくれている」という感覚が伝わります。

“反応”は安心の土台になる

逆に、パソコンを見ながら作業の手を止めずに返事をしたり、視線を合わせずに応じたりすると、相手は「今、話しかけてよかったのかな?」「ちゃんと伝わったのかな?」と不安になってしまいます。

承認や反応は、相手の存在を“見えている”と伝えるサインです。

  • 「今の提案、○○の視点が入ってていいね」
  • 「あの資料、期限ギリギリだったのにまとめてくれて助かったよ」
  • 「昨日のフォロー、ちゃんと気づいてたよ。ありがとう」

こうした言葉があるだけで、人は安心して話せるようになり、チームの雰囲気も徐々に柔らかくなっていきます。

“確認の一言”がズレを防ぐ

また、確認の一言もすれ違いを防ぐ力を持ちます。

  • 「この認識で合ってるかな?」
  • 「さっきの説明、こういう意味で合ってる?」

こうした確認の姿勢は、伝えた側にも「丁寧に受け止めてもらえている」という実感を生み、相互理解の精度を高めます。

こうした何気ないリアクションや声かけが、日々の接点の中で繰り返されること。それこそが、「話しかけやすい」「言ってもいい」という空気を形づくっていくのです。

行動が続くとハラスメントは起きにくくなる

一人ひとりのふるまいが積み重なると、それは「文化」となって組織全体に広がっていきます。たとえば、新しく入ってきたメンバーが「このチームではみんな素直に話しているな」と感じれば、自然とその雰囲気に乗って、自分の意見も言いやすくなります。

「言えること」が当たり前の組織では、ハラスメントが起きるリスクも格段に下がります。違和感があればすぐに声が上がり、対話を通じて修正されていく。お互いに関係性を壊さない伝え方を意識しているから、指摘や注意も“攻撃”になりにくい。仮に少しギクシャクすることがあっても、それを乗り越えるための土台があるのです。

文化は「続けること」で根づく

こうした文化は、一朝一夕で生まれるものではありません。小さなふるまいを「やり続けること」、そしてそれを「見せ続けること」が、文化の根を張らせる鍵になります。

「声をかける」「確認する」「感謝を伝える」──それぞれはほんの一瞬の行動ですが、その繰り返しが、「ここなら話してもいい」「自分はここにいていい」と思える職場を育てていきます。

まとめ

すれ違いは、“わかろうとしていないから”起きるわけではありません。上司にも部下にも、それぞれに正当な理由や視点があり、認識にズレが生まれるのは当たり前のことです。

だからこそ必要なのは、「伝わらなかったのは誰のせいか」と責め合うことではなく、相手の前提に目を向け、関係を壊さない伝え方を重ねていくことです。小さなリアクションや、ひと言の確認、丁寧な聞き返し──日常の中のほんの些細なふるまいが、すれ違いを防ぎ、組織の空気を変えていきます。

関係性は、一度に築かれるものではありません。伝えようとする姿勢と、否定しない関わりの積み重ねが、信頼という土台を育てていくのです。

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「一度研修は実施したけれど、現場の空気はあまり変わっていない」
「上司は萎縮し、部下は不安を抱えたまま」
「“注意=ハラスメント”にならないか、誰もが手探り状態」

ハラスメント対策は、法令対応や知識の共有だけで完結するものではありません。ルールを整えていても、「現場ではどう振る舞えばいいのか分からない」という迷いが残ることも少なくありません。

大切なのは、「なぜすれ違いが起きるのか」を丁寧に見つめ直し、日々の行動やコミュニケーションを少しずつ整えていくことです。

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監修者情報

株式会社アクシアエージェンシー
ビジネスソリューションユニット 研修開発グループ

中井 美沙

株式会社アクシアエージェンシー新卒入社。求人広告営業として大手中小企業の採用活動に携わる。2020年人事コンサルティング会社へ出向し研修企画実施や人事評価制度運営などに従事。2022年に研修開発部立ち上げに参加。人事部と兼務しながら社内の人材育成、人事評価制度運用、人事面談、社内外の研修企画実施などに従事。国家資格キャリアコンサルタント取得。株式会社アナザーヒストリー プロコーチ養成コーチングスクール修了。