ハラスメント対策として、制度やルールの整備を進めている企業は少なくありません。しかし実際の現場では、「制度はあるのに不信感が生まれる」「指導が誤解されてしまう」といった声が絶えません。
このシリーズでは、関係性の質に目を向けることが、組織を本質的に守るハラスメント対策につながるという視点から、現場で起こるすれ違いや、信頼関係の築き方、実践につながる対話のあり方を5回にわたって掘り下げていきます。
第2回のテーマは、ハラスメントが起きにくい職場をつくる空気とは何か。ハラスメントが自然と起こりにくくなる職場とはどのような環境なのかを考えていきます。 キーワードは「信頼関係」と「心理的安全性」。 誰もが安心して声を上げられる関係性が、なぜ最大の予防策となるのか。 その理由を、実際の職場にある日常の空気感とともに掘り下げていきます。
注意や指摘のつもりが、相手を傷つけてしまった。違和感を覚えたけれど、空気を壊しそうで何も言えなかった。そんなすれ違いが、職場の中で静かに積み重なってはいないでしょうか。
ハラスメントを発言内容の問題としてだけ捉えると、言葉選びばかりに意識が向き、本質的な対策にはつながりません。本当に大切なのは、「何を言ったか」ではなく、「どう関われる関係性があるか」。
本記事では、率直に話せる空気、互いに言葉を交わせる関係性が、なぜハラスメントの予防につながるのかを掘り下げます。制度やルールだけでは生まれない伝え合える職場の土台を、日常のふるまいと対話からひもといていきます。


ハラスメントが“起こりにくい組織”には何があるのか?
ハラスメントの発生をゼロにすることは、どの組織にとっても難しい課題です。どれだけ制度やルールを整えても、実際の職場では、ふとした言葉や表情のすれ違いが、誤解や不信感の火種になることがあります。
では、そんな中でも、ハラスメントが“起こりにくい”職場には、どのような特徴があるのでしょうか。その鍵を握るのが、心理的安全性です。
互いに率直に話せる空気があり、たとえ意見の相違や指摘があっても関係性が揺らがない。そんな職場では、小さな違和感が放置されずに対話され、関係のほころびが深まる前に修復されていきます。
このパートでは、「なぜそのような職場ではハラスメントが自然と起きにくくなるのか」、その背景にある関係性のあり方と対話の文化に注目しながら、組織の持つ空気の違いを紐解いていきます。
「率直に話せる空気」がハラスメントを遠ざける
「率直に話せる職場」とは、どんな空気が流れている場所でしょうか。
そこでは、意見や違和感を伝えても、すぐに否定されたり、冷たく突き放されたりすることがありません。話すことへのためらいが少なくなる、そんな雰囲気が育っています。
応答ひとつで、空気は変わる
たとえば、部下が「この進め方には少し不安があります」と伝えたとき、上司が「余計なことを考えずに、言われた通りにやればいい」と返したらどうでしょうか。あるいは、「そんなことも分からないのか?」という一言で終わってしまったら。
発言をした側は、次のように感じてしまいます。
- もう何も言わない方がいい
- ここでは本音を出さない方が安全だ
こうしたやりとりが重なることで、職場全体が「本音を隠す空気」に染まってしまうのです。
一方で、同じ場面で上司が「何が気になるの?」と関心を持って耳を傾けてくれたとしたら。部下は「ここではちゃんと話を聞いてもらえる」と感じ、自分の考えや気づきを素直に表現しやすくなります。
たった一つの応答が、職場に安心感を生み出すことがあるのです。
指摘が“責め”になるか、“伴走”になるか
上司が部下に注意を伝える場面でも、関係性のあり方で伝わり方は大きく変わります。たとえばミスがあったとき、「なぜこんなことになったんだ?」「前にも言ったよな」と強い口調で問い詰めれば、相手は委縮し、防衛的になってしまいます。
そうではなく、まず「どこでつまずいたのか」「背景に何があったのか」等も確認しながら、「どうすれば改善できそうか、一緒に考えよう」と対話を促すことで、指摘は“責め”ではなく“伴走”として受け取られやすくなります。
このような関係性があると、お互いの発言が攻撃として受け取られることが少なくなります。話し手は必要なことを伝えやすくなり、受け手は言葉の裏にある意図や背景を汲み取ろうとする。誤解やすれ違いが減ることで、職場の中に自然と穏やかなやりとりが増えていきます。
つまり、「率直に話せる空気」がある職場では、対話が止まらず、関係性のほころびが放置されにくくなります。言葉を交わせる関係性があるからこそ、早い段階でズレに気づき、修正しながら進んでいける。こうした“すれ違いを放置しない文化”こそが、結果としてハラスメントの芽を摘み、トラブルの広がりを防いでいるのです。
心理的安全性が生む、信頼と対話の連鎖
こうした職場に共通しているのが、いわゆる「心理的安全性」が高いという状態です。心理的安全性とは、自分の考えや気持ちをためらわずに表現できる、また、意見を述べても対人関係が損なわれないと感じられる状態を指します。
この感覚が職場に根づいていると、対話の質が自然と高まり、互いに通じ合える雰囲気が育っていきます。
心理的安全性は、日常の関わりの中で育つ
しかし、この「安心して話せる」空気は、制度やルールだけでは生まれません。日々のちょっとした会話や、何気ないふるまいの中でこそ、関係の基盤は育まれていくのです。
たとえば、ミスをしたときに責められるのではなく、まず話を聞いてもらえる。困ったときに「大丈夫?」と声をかけてもらえる。そんな小さな関わりの積み重ねが、職場全体の「安心感」を支えています。
つまり、ハラスメントが起きにくい職場には、単に“ルール違反がない”というだけでなく、「対話ができる土壌」があるという共通点があります。心理的安全性が高いことで、指摘や注意も自然に受け入れられ、意見交換が活発になり、問題が大きくなる前にすり合わせができる。その積み重ねこそが、ハラスメントの芽を摘み、健全な職場をつくっていくのです。
伝えることが怖くなくなる職場の特徴とは
職場でのすれ違いや不信感の多くは、「言いたいけれど言えなかった」「伝えたのに、うまく伝わらなかった」という沈黙や誤解から生まれます。必要だと分かっていても、「責められるのではないか」「相手を怒らせてしまうかもしれない」という不安が、言葉を飲み込ませてしまうのです。
しかし一方で、意見の違いや指摘が交わされても、関係性が崩れない職場もあります。そこでは、「伝えること」が対立や攻撃にならず、むしろ相互理解を深めるきっかけとして機能しています。
では、その違いはどこにあるのでしょうか?このパートでは、「伝えることが怖くない職場」にはどのような空気や文化があるのかを紐解きながら、上司も部下も本音を伝え合える関係性が、ハラスメントの予防や組織の強さにどうつながっているのかを考えていきます。
フィードバックが「攻撃」にならない職場の空気
同じ指摘でも、「攻撃」として受け取られる職場と、「気づき」として受け取られる職場には、明確な違いがあります。その違いを分けるのが、「普段の関係性」と「伝え合う文化」です。
「分かっていない相手」からの正論は届きにくい
たとえば、ふだんからあまり会話がなく、関心も寄せられていないと感じる相手からの指摘は、たとえ内容が正しくても、「責められている」と感じてしまいます。
このとき、受け手の心の中には、次のような反応が生まれます。
- 努力してきた背景も知らないのに、否定された
- 状況の難しさを理解せずに、一方的に責められた
つまり、“自分のことを分かっていない相手”からの言葉は、たとえ正論であっても、受け止めにくいのです。
一方で、日頃から思いやりや尊重が感じられている関係では、同じ内容でも「自分を思って言ってくれている」と受け止めやすくなります。
- この人は、ちゃんと自分を見てくれている
- 努力や状況も理解したうえで伝えてくれている
そう感じられることで、言葉は“否定”ではなく“伴走”として受け取られやすくなるのです。
意図は、言葉の外側からも伝わっている
また、伝える側がどんな意図で言っているかも重要です。「間違いを正したい」のか、「自分の正しさを示したい」のか。その違いは、言葉のトーンやタイミング、表情などににじみ出ます。
関係性がしっかりしている職場では、伝える側も一方的に言い切るのではなく、「これ、どう思う?」「ちょっと気になったんだけど」と、相手の視点を尊重しながら言葉を届けようとします。受け取る側も、「否定された」と感じる前に、「何を伝えようとしているのか?」と意図をくみ取ろうとします。
こうしたやりとりが日常的にある職場では、指摘やフィードバックが対立や萎縮につながりにくくなり、むしろ関係性を深めるきっかけになります。「言われても大丈夫」「言っても大丈夫」という相互の感覚が、結果としてハラスメントを防ぐ空気をつくっていくのです。
上司も部下も「言える関係性」が組織の力になる
フィードバックが機能する組織には、共通して「上司だけでなく、部下も意見や違和感を言える空気」があります。上下にかかわらず率直に伝え合える関係性は、個人の感情を守るだけでなく、組織としての軌道修正力や柔軟性にもつながります。
一方通行ではなく、双方向で言える関係性
たとえば、部下が上司に対しても「こうした方がやりやすいと思います」「少し負担が大きいです」と率直に伝えることができれば、業務の進め方や配置が柔軟に見直されやすくなります。また、上司からの注意やアドバイスに対しても、部下が「そうか、そういう見え方をしていたんですね」と建設的に返せれば、対話は対立ではなく成長のきっかけとなります。
一方的に指摘する、あるいは何も言えずに飲み込む──そのような職場では、次のような状態が生まれます。
- 問題や違和感が共有されない
- 本音が交わされないまま放置される
- やがて誰も言葉を発しなくなる
上司が「本音を言えばややこしくなる」と感じ、部下が「どうせ伝わらない」と諦める空気の中では、関係性が静かに壊れていきます。
心理的安全性は“往復運動”で育つ
だからこそ重要なのが、“双方向に言える関係性”です。上司が話を聴く姿勢を持っているからこそ、部下も違和感を伝えられる。逆に、部下が納得して受け止めてくれるという安心感があるからこそ、上司も率直に伝えることができる。
このように、心理的安全性は一方通行ではなく、関係性の往復運動の中で育っていくものです。
また、「ちゃんと見てくれている」「ちゃんと向き合ってくれる」という実感は、組織の推進力にもなります。問題やズレを早期にキャッチし、チーム全体で“早めに軌道修正できる”職場は、変化にも強く、学びが循環する環境になります。
つまり、「言い合える関係性」は、単なるハラスメント予防にとどまらず、組織の健全な前進を支える土台でもあるのです。言葉を交わすたびに、関係が深まっていく。その繰り返しが、「この職場なら大丈夫」と感じられる土壌をつくり、結果として、ハラスメントが起こりにくい強い組織を形づくっていきます。
空気が育てる関係性──日常の関わりこそが最大の予防策
多くの職場では、ハラスメント防止のために制度やルールが整えられつつあります。しかし現場でよく聞かれるのは、「制度はあるのに、実際には誰も使わない」「方針はあるけど、職場の空気が変わらない」といった声です。
つまり、仕組みだけでは、信頼は育ちません。制度を実際に機能させるためには、それを支える関係性や、声を上げやすい空気が必要なのです。
このパートでは、「なぜ空気が大事なのか」「現場でどう育てていけるのか」に焦点を当て、制度と現場をつなぐ“日常の関わり”の意味を考えていきます。
なぜ“何気ない声かけ”が関係性の基盤になるのか
職場での関係性は、特別な言葉や行動で一気に築かれるものではありません。むしろ、その基盤となるのは、日々の小さな関わりの積み重ねにあります。
最近では「仕事とプライベートは分けたい」「雑談は必要ない」と考える人も少なくありませんが、だからといって、日常的な声かけが不要になるわけではありません。重要なのはその中身です。
“声をかけること”ではなく、“何を伝えているか”
何気ない声かけとは、必ずしも雑談や私的な話題である必要はありません。たとえば、
- 「ここ、前よりスムーズになったね」
- 「この進め方、工夫していたよね」
このように、仕事の中での成長や工夫に目を向け、それを言葉にして伝えることが、信頼やつながりを育てます。
こうした声かけは、評価や査定とは違い、「ちゃんと見ている」「努力や変化に気づいている」というメッセージとして伝わります。その積み重ねが、「自分の立場や状況をわかった上で言葉をかけてくれている」という信頼につながり、いざ指摘やフィードバックが必要になったときにも、言葉を受け止めやすい土壌をつくっていくのです。
“見てもらえている”という実感が、安心を生む
また、こうした関わりがあると、部下や同僚も「ここなら自分の意見も気兼ねなく言える」と感じやすくなります。つまり、「できたことに気づいてもらえる」空気がある職場では、次のような変化が生まれます。
- 自信や意欲が育ちやすくなる
- 問題や違和感も“伝えていいもの”として扱われる
その結果、職場の中で前向きな循環が生まれていきます。
雑談やなれ合いが必要なのではありません。大切なのは、日々のふるまいを通して「あなたを大切に思っています」「ちゃんと見ています」というメッセージが伝わるかどうか。信頼は、関係を築く姿勢そのものから生まれるのです。


空気が制度を動かす──信頼を生む運用のあり方
多くの企業では、ハラスメント防止に向けた制度やルールが整備されつつあります。就業規則や相談窓口、通報制度、eラーニングなどの研修──こうした仕組みは、職場でのトラブルを防ぐための“土台”として必要不可欠なものです。
しかし、それだけで職場が安心できる空間になるかというと、必ずしもそうではありません。制度は「形」や「仕組み」を示すものですが、それをどう活かすかは、職場の空気にかかっています。たとえば、「フィードバックは日常的に行いましょう」「上司・部下ともに率直に意見を伝え合いましょう」といった行動指針があっても、職場の空気がピリついていて「どうせ言っても無駄」「言ったことで関係が悪くなるかも」と感じられていれば、実際には誰も声を出さなくなってしまいます。
ハラスメントのガイドラインを共有しても、「気をつけろと言われたから気をつける」という義務感だけでは、自然な対話や関係性の改善にはつながりません。
制度を“機能させる”のは、現場の理解と関係性
大切なのは、制度やルールの背景にある目指す職場像が、日常の関わりの中で自然と共有されていることです。「この制度があるのは、誰もが落ち着いて働ける環境を守るためなんだ」という理解があれば、形だけでの運用ではなく、意図を汲んだ使い方がされるようになります。
ただルールに従うのではなく、「この場面で声を上げることが、安心して働ける職場づくりにつながる」と判断し、実際に気づいたことを率直に伝えたり、それを受け止めて対話につなげたりする行動が生まれるのです。つまり、ルールや制度は「何を守るためにあるのか」を現場が理解してこそ、本当の意味で機能します。
そして、その理解を育てるのは、日々のふるまいと関係性です。制度を使いやすくするのも、活かすのも、現場に流れる空気。言葉にしやすい環境こそが、ハラスメント対策を“実のあるもの”にしていくのです。
まとめ
制度やルールだけでは、職場の安心感や健やかな関係性は生まれません。本当に大切なのは、「日々のふるまいを通じて、どんな空気が育っているか」です。ささいな声かけや、目の前の言葉にきちんと耳を傾ける姿勢──そうした一つひとつの関わりが、「言ってもいい」「聞いてもらえる」という感覚をつくり出し、結果としてハラスメントが起きにくい環境へとつながっていきます。
改めて、目の前の職場にはどんな関係性があるでしょうか。フィードバックや違和感を、安心して伝え合える空気はあるでしょうか。制度の有無だけでなく、「日常の関わりが、それを支えているかどうか」。
その視点で、自分たちの職場を見つめ直してみることが、対話の文化を育てる第一歩になるかもしれません。
ハラスメントを「防ぐ仕組み」を、いま見直してみませんか


「一度研修は実施したけれど、現場の空気はあまり変わっていない」
「上司は萎縮し、部下は不安を抱えたまま」
「“注意=ハラスメント”にならないか、誰もが手探り状態」
ハラスメント対策は、法令対応や知識の共有だけで完結するものではありません。ルールを整えていても、「現場ではどう振る舞えばいいのか分からない」という迷いが残ることも少なくありません。
大切なのは、「なぜすれ違いが起きるのか」を丁寧に見つめ直し、日々の行動やコミュニケーションを少しずつ整えていくことです。
アクシアエージェンシーのハラスメント対策研修の特徴
- ハラスメントの原因を事前に可視化できる『性格診断』を実施
- 理解を深め、振り返りにも活用できる動画による継続学習
- 実際の場面を想定しながら学べるロールプレイ中心の実践演習
- 上司と部下が同じ視点を持てるよう設計された研修スタイル
ハラスメントは「起きてから対処するもの」ではなく、「起きにくい組織を設計するもの」です。
貴社の現場に合わせた最適な形を一緒に設計します。まずは性格診断のみのご相談や資料請求だけでも可能です。お気軽にお問い合わせください。
監修者情報

ビジネスソリューションユニット 研修開発グループ
中井 美沙
株式会社アクシアエージェンシー新卒入社。求人広告営業として大手中小企業の採用活動に携わる。2020年人事コンサルティング会社へ出向し研修企画実施や人事評価制度運営などに従事。2022年に研修開発部立ち上げに参加。人事部と兼務しながら社内の人材育成、人事評価制度運用、人事面談、社内外の研修企画実施などに従事。国家資格キャリアコンサルタント取得。株式会社アナザーヒストリー プロコーチ養成コーチングスクール修了。




