組織の中で、人と人との関係性がこれまで以上に重視されるようになってきた現在。

「1on1ミーティング」は、上司と部下の信頼関係を深める手法として、管理職に求められるスキルの一つとして注目されています。

この対話は、部下の能力を引き出し、強みを伸ばしながら、自社の方針や目指す姿との接続点を探るうえでも非常に役立つ場です。
しかし実際の現場では、「どう始めたらよいかわからない」「毎回雑談で終わってしまう」といった声もあり、円滑に進めるにはアドバイスや考え方の整理が必要です。

本記事では、1on1ミーティングの基本から導入法、効果的な進め方、実現に向けた管理のヒント、さらにはよくある課題の解決策までを具体的に紹介しています。
これから導入を目指す方にも、すでに運用中の方にも、役立ち・気づきのある内容をお届けします。

1on1ミーティングとは?

近年では、企業の人材育成や組織マネジメントの取り組みとして「1on1ミーティング」に関心が高まっています。働き方が多様化し、価値観も人それぞれになってきた今、従来の一律的なマネジメントでは社員一人ひとりの力を引き出すことが難しくなっています。
そうした背景の中で、上司と部下が継続的に対話を行う「1on1ミーティング」は、信頼を築きながら個々の成長を後押しする手段として注目されています。

ここでは、1on1ミーティングの基本的な考え方と、人事評価面談との違いについて詳しく見ていきます。

1on1ミーティングの定義

1on1ミーティングとは、リーダーとメンバーが一対一で行う会議です。通常は30分程度の時間が設定され、業務の話題だけでなく、個人の成長や目標の共有、チームとしての課題についても幅広く対話を行います。こうした対話を通じて、直接コミュニケーションを取ることができる点が大きな特徴です。

1on1の話題やテーマは、「上司が決めたことを話す」のではなく、基本的には部下がその時に話したいことを自由に話すのが前提です。これは決して雑談を意味するのではなく、日常の仕事で感じている不安や違和感、キャリアに関する悩みなど、その人の中にある本音を引き出すことが大きな目的です。部下が話したいと思えるテーマに耳を傾けることで、信頼関係の構築や内省の促進につながります。

また、1on1ミーティングでは一人ひとりに寄り添った関わりが求められるため、リラックスして話せる環境づくりが重要です。周囲の目が気にならない空間や、落ち着いて会話できる雰囲気が整っていることが望ましく、たとえば他の社員が出入りしない場所を選んだり、オンラインの場合は会話に集中できる時間帯を選ぶといった工夫が考えられます。

小さな会議室やカメラをオンにして話す方法も一つですが、それがかえって緊張感を与えるようであれば、別の方法を選んでも問題ありません。大切なのは「部下が安心して話せる空間」を整えることです。

このミーティングは「週に1回」「月に1回」といったサイクルで行われることが多く、毎回同じような話題ではなく、状況に応じてテーマを変えていくことが効果的です。1on1は、チームの一員としての成長を支援し、双方が一緒に考える場としての価値があります。

人事評価面談との違い

1on1ミーティングと人事評価面談は、名前は似ていますが目的も形式も大きく異なります。

まず、人事評価面談は、従業員の成果や日々の行動をもとに評価を行う場として位置づけられています。会社の方針や評価基準に沿って、上司が従業員にフィードバックを行うのが一般的で、通常は年に1〜2回など、定期的に実施されます。一方で、1on1ミーティングは、個人の成長支援を目的に、もっと短いサイクルで定期的に行われます。

形式面でも違いがあります。評価面談はフォーマルな雰囲気で実施されがちですが、1on1はよりリラックスした状態で行われることが多く、部下が話しやすい空気をつくることが重視されます。面談の進行も、上司が話すのではなく、部下の話に耳を傾ける姿勢が求められます。

こうした違いを理解しておくことで、それぞれの価値を適切に見極めることができます。実際、アンケートなどを通じて従業員の満足度や実感を把握し、どのような形式が職場に合っているかを検討する企業も増えています。

1on1ミーティングの目的

1on1ミーティングは、単なる報告の場ではなく、上司と部下が本音で向き合い、お互いを理解し合うための大切な対話の時間です。
特に、多様な働き方や価値観が広がる現代においては、一人ひとりの考えや目指す方向性に寄り添ったコミュニケーションが欠かせません。

この章では、「部下の成長支援」と「信頼関係の構築」という2つの観点から、1on1ミーティングが果たす役割とその重要性について詳しく解説していきます。

部下の成長を促す

働く人の価値観やキャリア観がますます多様化する中で、組織が一人ひとりの成長を支えるには、画一的な教育や管理では限界があります。このような状況だからこそ、1on1ミーティングは一人ひとりに向き合う育成手法として注目されています。

この場では、上司が一方的に話すのではなく、対話を重ねながら部下と一緒に目標を設定し、進み方を考えていく姿勢が大切です。目標を明確に共有することで、部下は自分自身の成長の流れを意識しやすくなり、日々の業務に対してもより積極的に取り組めるようになります。

また、成長を実感できるようにするには、定期的なフィードバックが欠かせません。進捗に応じて適切なタイミングで言葉をかけることで、自信を持って次のステップへ進む後押しになります。「できていること」を認め、「これから伸ばすべきこと」を伝えるこのプロセスが、成長を加速させていくのです。

さらに、部下の自主性を尊重する姿勢も大切です。すべてを上司が管理するのではなく、部下自身が考え、選択し、実行できるように支援することで、長期的な成長に結びついていきます。1on1は、そうした「自ら進んで動ける人材」を育てる場でもあります。

信頼関係の構築

1on1ミーティングが持つもうひとつの重要な役割は、信頼関係の構築です。多様な働き方が広がる中で、仕事の進め方や価値観が一人ひとり異なる今、上司と部下の相互理解なしに効果的なマネジメントは成り立ちません。

定期的にじっくりと話をする機会を持つことは、相手の考えや感じていることに耳を傾ける貴重なチャンスです。形式ばらず、オープンなコミュニケーションを心がけることで、部下も安心して本音を話しやすくなります。

大切なのは、上司が「評価者」としてではなく、「支援者」としての姿勢を見せることです。部下が何を感じ、どこに不安を抱えているのか。その声に真剣に向き合うことで、徐々に信頼の土台が築かれていきます。

このようにして生まれるつながりは、単なる業務遂行のためではなく、人間関係としての安心感にもつながります。そしてその安心感こそが、部下の自律的な行動や、変化の激しい環境への柔軟な対応力を引き出す力になるのです。

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1on1ミーティングが注目される理由

1on1ミーティングは、近年多くの企業が取り入れ始めている注目のマネジメント手法です。その背景には、社会全体の変化や働き方の多様化、そして組織運営のあり方自体が見直されているという大きな流れがあります。

変化が激しく、将来が予測しづらい時代。そんななかで、上司と部下が定期的に向き合い、信頼を築きながら自律的な行動を支援する1on1は、これまで以上に重要な役割を果たすようになってきました。

この章では、「VUCA時代」と「多様な働き方」という2つの視点から、なぜ今1on1ミーティングが必要とされているのかを掘り下げて解説していきます。

VUCA時代の影響

いま、ビジネスの世界は「VUCA(ブーカ)」という言葉で表されるような、予測の難しい時代に突入しています。
これは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉で、未来が見通しにくく、あらゆるものが急激に変化する現代の状況を表しています。

たとえば、急速な技術革新や国際情勢の変化、消費者ニーズの多様化などにより、数年前にはなかったビジネスモデルが次々に登場しています。昨日までの正解が、今日は通用しなくなる。そんな時代に、従来のようにトップダウンで動かす組織運営だけでは対応しきれなくなっています。

このような不確実性の中で求められているのは、現場にいる社員一人ひとりが自ら考え、判断し、動けること。そして、組織としてその力をどう引き出していくかがカギになります。

こうした背景から、個々と向き合う対話の場として「1on1ミーティング」に関心が集まっています。

 日々の業務の中では話しきれない気づきや不安、アイデアを共有できる場を定期的に持つことで、自律的な行動を支援し、変化への対応力を高めることができます。

たとえるなら、1on1は「行き先が見えにくい道を一緒に歩くための地図を描く時間」のようなもの。上司が先を照らし、部下が自分の足で進む。その関係性こそが、VUCA時代における人材育成の土台となるのです。

多様な働き方への対応

コロナ禍をきっかけにリモートワークが浸透し、働き方は一気に多様化しました。
今ではフレックス勤務、副業、週休3日制、地方移住など、「正解はひとつではない」という前提で働く人が増えています。

こうした多様なスタイルは、働く人の人生を豊かにし、企業にとっても優秀な人材を確保するチャンスになります。ですがその反面、人によって仕事の進め方やコミュニケーションの取り方に違いが生まれ、すれ違いや孤立が起きやすくなるという課題もあります。

たとえば、ある社員は毎日オフィスに出社し、雑談も多い。一方で別の社員はほぼ在宅で働き、対話の機会が限られている。こうした中で「誰がどんな思いで働いているのか」が見えづらくなっているのです。

1on1ミーティングは、そうしたギャップを埋めるための「つなぎ役」になります。上司が定期的に部下と向き合うことで、日々の働き方に対する思いや、業務への不安、やりがいなど、表に出にくい声を拾い上げることができます。

企業によっては、1on1で得た気づきを部門全体の改善につなげたり、新たな人事制度の見直しに活用するケースもあります。こうして1on1は、「個人と組織の接点」を強化し、多様な人材が活躍できる環境づくりに貢献しているのです。

1on1ミーティングのメリット

1on1ミーティングは、上司と部下が継続的に時間を取り、落ち着いて向き合うための大切な対話の場です。
その実施を習慣化することで、個人だけでなく、組織全体にもさまざまなプラスの効果が生まれます。特に注目すべきは、部下のモチベーションの向上や、生産性の底上げ、そして離職の防止といった働きがいに直結するポイントです。

この章では、1on1ミーティングを通じて得られる主なメリットについて、3つの切り口から詳しく解説していきます。

部下のモチベーション向上

1on1ミーティングを通じて得られる効果のひとつに、部下のモチベーション向上があります。仕事に前向きに取り組んでもらうためには、日々の努力が正しく評価され、自分の成長が実感できることが欠かせません。

特に効果的なのは、具体的なフィードバックを伝えることです。「この前の提案資料、構成がとても整理されていて分かりやすかったよ」といった一言が、部下にとっては自信を育てるきっかけになります。漠然とした褒め言葉よりも、どの点が良かったのかを伝えることで、部下の成長実感が深まり、次の行動につながります。

また、1on1では部下の意見やアイデアを尊重する姿勢も大切です。上司がしっかり話を聞き、「あなたの考えを大事にしているよ」と伝えることで、部下は自分が組織に貢献できる存在だと感じられます。こうした相互のやりとりは、信頼関係を築きながら、モチベーションの維持・向上に寄与します。

さらに、定期的な進捗確認を通じて、目標に向けて歩んでいる実感を得られることも、前向きな気持ちを保つ要因です。進んだ分だけ支援が得られ、悩んでいる時には励ましがある。このような関わりが、メンバーのパフォーマンスを底上げしていくのです。

組織全体の生産性向上

1on1ミーティングは個人への支援にとどまらず、組織全体の生産性を高める効果もあります。特に、日々のやり取りの中で生じやすい誤解や認識の違いを、早めに解消できる点が大きな利点です。

たとえば、「最近、仕事の優先順位がつけづらくて迷っている」といった声を1on1で拾い上げることで、上司が業務の整理を手助けしたり、周囲との連携方法を見直すきっかけになります。こうした行動の整理や業務調整を通じて、ムダな手戻りを防ぎ、効率的に仕事を進められるようになります。

また、定期的な対話を通じて、現場で感じている課題や提案が吸い上げられやすくなるため、組織としての改善スピードも上がります。職場環境の不具合や、ツールの使いづらさといった細かな点も、1on1でなら気軽に話しやすく、すばやく対応できるのです。

このように、1on1ミーティングは、マネジメントを機能させるための土台でもあります。個人の働きやすさと組織全体のパフォーマンスをつなぐ大きな役割を果たしているのです。

離職率の低下

最近では、多くの企業が「人が定着しない」という悩みを抱えています。従業員の離職が進むと、単なる人手不足にとどまらず、職場のノウハウの喪失や採用・育成コストの増大につながります。

1on1ミーティングは、こうした問題への有効なアプローチとなります。なぜなら、従業員の「やりがい」や「不安」を早期にキャッチし、対応できる仕組みだからです。

たとえば、「この仕事が自分の成長にどうつながるのか分からない」といった気持ちが、やがて離職のきっかけになることがあります。1on1では、キャリアの展望や期待されている役割についてじっくり話すことができ、本人が未来を描けるようサポートが可能です。

また、定期的なフォローによって、小さな不満や課題が大きくなる前に対処できます。問題を抱え込んだまま辞めてしまうのではなく、「ここで相談すれば改善されるかもしれない」という信頼感が生まれるのです。

さらに、部下の声をもとに職場環境や業務のあり方を柔軟に見直す取り組みも、定着率の向上に効果的です。1on1で得られる日々の「気づき」は、組織が変化に強くなるための貴重なヒントになります。

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1on1ミーティングの進め方

1on1ミーティングを単なる対話の場で終わらせず、部下の成長や組織力の向上につなげるためには「進め方」が極めて重要です。ただ定期的に話すだけでは、大きな効果は生まれません。目的、頻度、準備といった各ステップをしっかりと整えることで、1on1は人材育成を支える中心的な取り組みとして活かせるようになります。

この章では、導入を検討する企業や人事担当者、現場の上司にとって、明日からすぐに使える1on1の進め方を、実践的なポイントを交えて解説します。

目的を明確にする

1on1ミーティングを効果的に行うには、まず「何のために話すのか」という枠組み(目的)を明確にすることが大切です。
たとえば、キャリアについて話す、最近の業務について振り返る、チームの課題を共有するなど、ミーティング全体の方向性を事前に共有することで、部下も安心して話に臨むことができます。

ただし、その中で具体的に何を話すかは、部下自身が決められるようにするのが1on1の基本です。上司が一方的にテーマや話題を指示するのではなく、「今日はキャリアについて自由に考えていることを聞かせてほしい」といったオープンな姿勢が、部下の主体性を引き出します。

このように目的は共有しつつも、部下が話の主役として、自分の考えや気持ちを自由に表現できる場にすることが、信頼と自律を育むうえで大切です。

スケジュールの設定

1on1ミーティングは、継続的に行うことで本来の効果を引き出すことができます。たとえば月1回、30分など、無理のないペースを事前に決めておくと、双方の負担も少なく、日常の一部として根付きやすくなります。

予定を立てる際には、参加者の都合を優先し、業務の合間でも落ち着いて話せる時間を選びましょう。無理に押し込むようなスケジュールでは、対話の質が下がってしまいます。

また、ミーティングの前に「キャリアのことについてざっくばらんに話す場にしたい」といったテーマの方向性を共有することで、部下も心構えをしやすくなります。

あくまで準備は「部下が自由に話せるための補助」として位置づけることが、1on1を成功させるコツです。

話す内容の準備

1on1ミーティングでは、あらかじめ話すテーマを細かく決めるよりも、会話を自然に引き出すための工夫をしておくことが重要です。

たとえば上司は、「最近どんなことを感じながら働いているのか」「何か困っていることはないか」などの問いかけのヒントをいくつか用意しておくと、部下が話しやすくなります。ただし、それを話すべき内容として押しつけるのではなく、あくまで話のきっかけにとどめましょう。

部下が「今日はキャリアのことよりも、最近気になっている業務改善の話をしたい」と思えば、それを尊重する姿勢が必要です。1on1は、「話すべきことを整理する場」ではなく、「部下が今話したいことを引き出す場」です。だからこそ、準備は念入りに、でも会話は自由に。
そのバランスが、信頼を深め、部下の内面を引き出す対話につながっていくのです。

1on1ミーティングで話すテーマ

1on1ミーティングの価値は、「どんな話をするか」で大きく左右されます。
とはいえ、話題は上司が一方的に用意するものではなく、部下がそのときに感じていること、話したいことを引き出すことが何よりも大切です。そのためには、部下が「話してもいい」「話したくなる」と思えるようなきっかけやテーマの方向性を柔らかく提示しておくことが効果的です。
ここでは、1on1でよく扱われるテーマとして代表的な3つを紹介し、それぞれのポイントを解説します。

業務に関する悩み

日々の業務における悩みや困りごとは、1on1でこそ拾える重要な話題です。
上司は、「最近困っていることはない?」というシンプルな問いかけだけでも、部下が口にしやすいような雰囲気づくりを意識するとよいでしょう。

たとえば、進捗が思うようにいかないプロジェクトや、苦手意識のある業務について話が出た場合、まずはじっくりと耳を傾け、状況を把握することが第一歩です。

もちろん、上司として解決策や改善のヒントを提示する場面もありますが、それ以上に重要なのは、「なぜその業務をハードルに感じているのか」という本人の気持ちに寄り添う姿勢です。

「やらなきゃいけないとは思っているけど、なぜか手がつかない」「ミスが怖くて踏み出せない」といった、目に見えにくい感情の壁が行動を妨げていることも少なくありません。
どれだけ正しい戦略や方法を示されても、気持ちがついてこなければ、人は動けないのです。だからこそ、業務の課題を共有するだけでなく、それに対する不安や葛藤、抵抗感といった“内面の声”を引き出すことも1on1の大切な役割です。
その上で、上司は必要に応じて寄り添い方を変えたり、伴走の姿勢を見せたりすることで、実際の行動につながる支援ができるようになります。

キャリアの目標

キャリアについての話は、1on1ミーティングにおいて特に奥深く、かつ重要なテーマのひとつです。
ただし「将来どうなりたい?」といった問いかけに、すぐに明確な答えが返ってくるとは限りません。
むしろ、「まだわからない」「自信がない」「どう考えればいいか見当もつかない」という状態が自然です。

だからこそ大切なのは、明確な目標の有無にかかわらず、部下が今感じていることを素直に言葉にできる場をつくることです。

たとえば、「今の仕事のどんなところにやりがいを感じる?」「他の職種に興味を持ったことはある?」といった問いかけを通して、少しずつキャリアの軸を探っていくことができます。
このプロセスそのものが、部下にとっての内省や気づきのきっかけになるのです。

また、「本当はこういうことに挑戦してみたいけど、失敗しそうで不安」「今の職種が合っているかわからず、なんとなく焦っている」など、前向きな目標設定を妨げる“気持ち”の部分にも丁寧に目を向けることが欠かせません。キャリアの話は、選択肢や制度の提示だけでなく、本人が納得して歩んでいける道を一緒に探す対話でもあります。
目標を一緒に言語化し、必要に応じて学びの機会や業務でのチャレンジにつなげていく。
そんなやわらかくも芯のあるサポートが、信頼と成長の土台になるのです。

メンタルヘルスの確認

1on1ミーティングは、部下のメンタルヘルスをさりげなく確認できる貴重な機会でもあります。
とはいえ、「最近、体調どう?」といったストレートな質問だけでは、本音を引き出すことは難しいかもしれません。
特に、心理的な不調は自覚しにくかったり、話題にしづらかったりするものです。

だからこそ、上司の側から“話しても大丈夫な空気”をつくることが大切です。
たとえば、「最近ちょっと忙しそうだったけど、負担がかかっていないかな?」とか「このところ在宅が多いけど、話し相手が少なくて寂しいと感じることはない?」といった問いかけなら、日常の延長として気持ちを話しやすくなります。

また、部下が少しでも何かを話してくれたときには、評価や判断をせず、まずは「聞く姿勢」を徹底することが信頼感につながります。
「そう感じていたんだね」「それは大変だったね」といった受け止めの言葉だけでも、部下にとっては気持ちの支えになります。

さらに、メンタルヘルスについて話題にすること自体が「特別なこと」ではない、という職場の雰囲気づくりも重要です。
1on1の中で日常的に気持ちの話を交えることで、不調のサインを早めにキャッチできたり、サポートにつなげたりすることが可能になります。メンタルの安定は、働く上での土台です。
仕事がうまくいっていても、心の疲れや不安を放置してしまえば、やがてパフォーマンスにも影響を及ぼします。
1on1では、こうした小さな変化に気づき、部下自身が「安心して話せる」と感じる関係性を築くことが大切なのです。

1on1ミーティングの注意点

1on1ミーティングは、ただ形式的に回数をこなせば良いというものではありません。対話の中身や姿勢によって、その価値は大きく変わります。
特に、部下が安心して本音を話せる場になっているかどうかが、1on1の成果を左右する大きなポイントです。せっかくの時間が「なんとなく話して終わった」だけではもったいないもの。ここでは、1on1をより良い時間にするために押さえておきたい注意点を紹介していきます。
一つひとつを丁寧に実践することで、対話は少しずつ深まり、信頼関係も強まっていくはずです。

部下の話に耳を傾ける

1on1ミーティングで最も大切な姿勢のひとつが、「本気で相手の話を聴くこと」です。
ただ聞くだけでなく、相手の立場や気持ちに意識を向けて、本音や内面に寄り添おうとする姿勢=傾聴が必要になります。

「最近、どう?」という問いかけの裏に、部下がどんな思いを抱えているのか。
言葉にしにくい感情がないか。
そうした気配に気づくには、表情や口調、沈黙など、言葉以外のサインにも敏感であることが大切です。

また、体調やメンタルのコンディションについても、構えず自然に聞ける雰囲気づくりを意識しましょう。
たとえば「最近、ちょっと疲れてない?」「気になることがあったら、何でも話してね」といった、日常の延長線のような言葉であれば、部下も安心して話しやすくなります。相手の話をさえぎらず、共感しながら聴く。
それだけで、部下は「自分を理解してくれている」と感じ、信頼が深まります。
良い1on1は、聴くことから始まるのです。

雑談で終わらせない

1on1はあくまでも、部下の成長やサポートを目的としたミーティングです。
そのため、「今日は雑談で終わってしまったな…」という状態が続くと、本来の効果が得られなくなってしまいます。

とはいえ、雑談を一切排除すべきということではありません。
むしろ、雑談は部下との距離を縮める大切な入口でもあります。
大事なのは、雑談から生まれた話題の中にもヒントが隠れていることに気づき、自然に本題へつなげていくことです。

たとえば、「最近、家のことでバタバタしていて…」という雑談から、「もしかして、業務にも影響が出てる?」とさりげなく切り込む。
そうすることで、リラックスした雰囲気を保ちつつ、対話の目的を果たすことができます。

また、ミーティングの終盤には「今日はこんな話ができてよかったね」と内容を軽く整理し、次回に向けた一歩を共有することで、1on1の価値が明確になります。

継続的な実施の重要性

1on1ミーティングは、一度きりの対話ではなく、継続することで真価を発揮します。たとえば月1回など、無理のないペースで定期的に実施することで、部下の状態や業務の進捗を少しずつ把握できるようになります。

また、1回ごとの内容がつながっていくことで、上司としては「前回からの変化」や「継続的な課題」が見えやすくなり、より的確なサポートや声かけができるようになります。

一方で、話し手である部下にとっても、定期的に話す場があることは安心感につながります。悩みや迷いを抱えたままにせずに済むだけでなく、自分の考えや感情を少しずつ整理できる時間にもなります。1on1を繰り返すことで、自分の変化や成長に気づけるようになるという点も、継続する価値のひとつです。信頼関係は、一度の対話では築けません。
だからこそ、1on1は日常の中に自然と組み込まれるべきもの。形式ではなく、「話すことが当たり前」な関係性が生まれることで、部下も上司も、より率直に、より前向きに話ができるようになっていくのです。

リモート・ハイブリッド環境における1on1ミーティングの工夫

働き方が多様化し、リモートやハイブリッド勤務が当たり前になった今、1on1ミーティングにも新たな工夫が求められています。

「顔を合わせない分、気持ちが読みづらい」「会話が浅くなりがち」といった悩みも聞かれますが、少しの意識と工夫で、リモートでも充実した対話は十分可能です。

むしろ、関係性を丁寧に育てるチャンスともいえます。ここでは、リモート環境下でも効果的な1on1を実現するためのポイントを紹介します。

オンライン環境での実施ポイント

リモートでの1on1は、対面以上に配慮が必要です。静かな場所を選び、プライバシーを確保できる環境を整えることが第一歩となります。
また、事前のツール確認や資料共有など、スムーズに進めるための段取りも重要です。開始時には、「今日は○○について話せたらと思っています」と伝えることで、相手も準備しやすくなります。

さらに、リモートでは「ちょっとした会話のきっかけ」が減るため、冒頭の一言を大事にするのもポイントです。たとえば「今週の仕事で印象に残ったことはある?」といった柔らかい問いかけからスタートすることで、相手の気持ちがほぐれやすくなります。形式よりも、“相手とどうつながるか”を意識すること。
それがオンライン1on1の成功のカギなのです。

非言語情報のキャッチアップ方法

リモート環境では、表情やしぐさ、間の取り方といった非言語情報(ノンバーバル)が伝わりづらくなります。しかし、そうした情報こそが、部下の気持ちや本音を読み解くうえでの大きなヒントになります。

たとえば、カメラ越しにいつもより声が小さい、目線が合わない、話すスピードがゆっくり…そんな変化があったときは、「何かあったのかな?」と一度立ち止まって考える視点が重要です。直接的に聞く前に、「最近、ちょっと疲れているように見えるけど大丈夫?」といったやさしい問いかけをすることで、相手が本音を話しやすくなります。

また、言葉の内容よりも、「どこを強調して話しているか」「どこで言いよどむか」などに注目することで、話の奥にある気持ちや価値観に気づけることもあります。

「伝えてくれるのを待つ」のではなく、「見えていない部分にも心を向ける」姿勢が、信頼を築く力になります。

リモートならではのツールと話題の工夫

1on1を円滑に進めるためには、適切なツール選びも重要です。ZoomやGoogle Meetといったビデオ通話に加え、GoogleドキュメントやSlackで事前の共有や記録を行うことで、会話が整理されやすくなります。

また、「在宅勤務で工夫していること」「リモートで困っていることはある?」といったテーマを使うと、相手の状況に寄り添った話がしやすくなります。
画面共有で進捗を一緒に確認したり、成果を見ながら振り返ったりする工夫も効果的です。ツールは手段にすぎませんが、その使い方次第で、物理的な距離を越えて気持ちのつながりを育てることができます。
相手に寄り添った対話設計こそが、リモート1on1の質を高めるカギとなります。

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1on1ミーティングを支えるツールの活用と注意点

1on1ミーティングを継続し、振り返りや成長に役立てるためには、ツールの力を借りることも一つの手段です。ただし、1on1は個人の気持ちや考えを自由に語るための場であるため、記録や可視化に対しては慎重な配慮が必要です。この章では、心理的安全性を守りながら、1on1の価値を高めるツールの活用方法を解説します。

ツールは“記録”ではなく“対話の補助”

1on1での会話を記録する目的は、あくまでも内容を管理するためではなく、対話の継続性や進捗確認を補助するためにあります。たとえば、話し合った内容の中から次回までのアクションや小さな気づきをメモとして残すことで、次回の対話に自然につなげることができます。

ただし、会話すべてを詳細に記録したり、上司が一方的に管理する形にすると、部下は本音を話しづらくなります。記録する場合は「今日はこんなことを話して、次にこう進めることにした」といった要点のみに留めるなど、部下との合意を前提に進めることが大切です。

心理的安全性を守るための配慮

1on1は、安心して話せる空間であることが最も重要です。ツールを使う際にも、部下が「記録されている」と感じて緊張しないような工夫が必要です。

たとえば、記録する場合は必ず本人に共有し、内容について同意を取ること。また、「今日はメモを取らずに、ただ話を聞くことに集中するね」と明言することで、より自由な対話が生まれることもあります。

また、プライバシーへの配慮も欠かせません。1on1で共有された内容は、本人の許可なく他者と共有しないことが原則です。こうしたスタンスを明確に示しておくことで、より信頼感のある場づくりにつながります。

目的に応じたツールの選び方

1on1の目的や運用スタイルに応じて、ツールの種類を使い分けることが効果的です。たとえば、定期的なスケジュール管理にはGoogleカレンダーやNotion、進捗の確認にはチェックリスト機能のあるタスク管理アプリが便利です。

また、フィードバックの記録や振り返りを共有したい場合には、1on1特化型の有料ツールを活用するのも選択肢の一つです。ただし、いずれの場合も「対話の質を高めるための補助ツール」であるという位置づけを明確にし、導入時には部下とのすり合わせを忘れないようにしましょう。

ツールは、あくまで“人の関係性”を支える存在です。上手に取り入れながらも、対話の温度や安心感を損なわないよう注意することが、1on1を長く続けるコツです。

1on1ミーティングの導入方法

1on1ミーティングの価値を最大限に引き出すためには、導入の段階でどれだけ丁寧に準備できるかがカギになります。うまく活用すれば、信頼関係の構築や成長支援の強力な手段となりますが、形だけの導入ではかえって信頼を損ねるリスクもあります。

特に重要なのは、上司自身が「なぜ1on1をやるのか」「どう向き合うべきか」を理解し、実践できるようになることです。そのために、研修やセミナーを通じて基本的な知識や姿勢を身につけることが効果的です。また、現場に広めていく際には、導入そのものを目的化せず、話し手の気持ちやメリットに寄り添った丁寧な周知が求められます。

この章では、1on1ミーティングの導入を成功させるために、研修・セミナーの活用法と社内での周知活動のポイントを紹介していきます。

研修やセミナーの活用

1on1ミーティングの導入にあたっては、単に手法を紹介するだけでなく、上司としての基本的なスタンスや進め方の目線合わせがとても大切です。特に、心理的安全性の作り方や話の聴き方、問いかけによる掘り下げ方など、1on1の基礎となる関わり方について丁寧に学ぶ機会を設けましょう。

実際には、すべての部下が「上司に話を聞いてもらいたい」と思っているわけではありません。準備不足のまま形式的に1on1を実施してしまうと、話し手にとって「結局何の意味があったのか分からない」といった不満につながることがあります。こうした経験が積み重なると、1on1自体が「ただの業務負担」と受け止められてしまい、継続的な運用が難しくなります。

だからこそ、研修やセミナーでは導入目的をしっかり理解したうえで、部下が安心して話せる場をどうつくるかを学ぶことが不可欠です。そのうえで、他社の取り組みや成功事例を紹介したり、実際の場面を想定したロールプレイを通して、実践につながるスキルの習得を図ると効果的です。

管理職向け研修事例

■実施の背景・課題

建設・人材サービス業を展開するある企業では、若手社員の離職が続いており、組織としての対策が急務となっていました。特に問題となっていたのは、管理職が部下からの声を受け止めても、それを組織内で共有せず、個人の判断で場当たり的に対応していた点です。
このような状況が続くことで、問題の本質が見過ごされ、根本的な改善が難しくなっていたのです。経営層と人事部は、「若手の本音を汲み取る仕組み」を整える必要があるという認識を共有し、全職種の管理職を対象とした1on1研修の導入に踏み切りました。

■研修内容

  • 事前に全社で実施した従業員サーベイの結果をもとに、現場の課題を可視化
  • 1on1ミーティングの目的と意義を整理
  • 「聴く姿勢」の重要性と、心理的安全性のつくり方を学習
  • 対話の基本スキル(問いかけ・傾聴・掘り下げ)の習得
  • ロールプレイを通じた1on1の実践トレーニング

■実施後の変化

研修を通じて、管理職層に「部下の話を聴くことが自分の役割である」という認識が浸透しはじめました。すぐに全員が高いレベルで実践できたわけではありませんが、1on1の意義や進め方に対する理解が深まり、現場での対話を見直すきっかけとなりました。
形式的な面談ではなく、日々の関係構築や部下の成長支援のために1on1を活用しようとする姿勢が、少しずつ広がりを見せています。

社内での周知活動

1on1ミーティングを組織文化の一部として根付かせるには、社内での丁寧な周知活動が欠かせません。ポイントは、「1on1を導入すること自体が目的ではない」ということを明確にし、部下が安心して話せる場をつくるための手段であるというメッセージを共有することです。

たとえば、社内ポータルやメールなどで1on1の目的や効果を紹介する際には、「こんな話ができてすっきりした」「上司が初めてちゃんと自分の話を聞いてくれた」といった話し手の声や感想をあわせて伝えることで、関心や納得感を高めることができます。

また、「1on1でどんな変化があったか」「関係性がどう深まったか」といった実際の効果や小さな成功体験を社内に広めていくことで、1on1に対する信頼と期待が徐々に高まっていきます。こうした地道な発信が、メンバーの自発的な参加意欲を育て、継続的な取り組みへとつながっていくのです。

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1on1ミーティング後のフォローアップと効果測定の方法

1on1ミーティングは、ただ「話して終わり」ではなく、その後のフォローアップこそが信頼関係や成長支援につながる大切なステップです。ミーティング中に語られた内容や気づきが、日々の業務にどう活かされているかを見守り、必要に応じて支援していくことで、1on1の価値はさらに高まります。

また、1on1の効果を測定し、実際に部下やチームにどのような変化があったかを確認することも欠かせません。ただし、数値だけで判断するのではなく、相手の心の変化や取り組みの質に目を向けることが、真の意味での育成と定着を促します。

この章では、1on1のフォローアップをどう行うか、どのように成果を見える化して人事制度と結びつけるかなど、継続的な対話の質を高めるための実践的なヒントをご紹介します。

面談内容の記録と進捗確認

1on1ミーティングは、その場限りの会話で終わってしまっては意味がありません。大切なのは、話した内容をどう活かすかです。
特に、本人が話したことや合意したアクションを軽くでも記録しておくことで、次回の対話の質が格段に上がります。

ただし、記録といってもすべてをメモする必要はありません。あくまで、本人の気づきや行動に関する要点を残しておくことがポイントです。また、共有の前提がない状態で記録が第三者の目に触れることがあると、心理的安全性が損なわれる恐れもあります。記録の取り扱いには慎重さが求められます。

記録を基に「前回の話から、あれからどうだった?」と自然に振り返ることで、部下は「ちゃんと覚えてくれている」と感じ、信頼感が高まります。それが小さな前進でも、継続的な確認があることで自分の歩みを実感できるのです。

定期的な振り返りと目標の見直し

1on1は単発で終わらせず、中長期的な振り返りのサイクルに組み込むことで、より価値ある対話になります。

たとえば、半年ごとに「この半年間、1on1でどんな話をしてきたか」「その中で変わったことは何か」を振り返る機会を設けることで、行動の定着や内省の深まりが期待できます。本人のキャリア観や仕事への取り組み姿勢は、日々変化します。だからこそ、目標は一度決めたら終わりではなく、状況に応じて柔軟に見直していく姿勢が大切です。「最初に掲げた目標は変わったけれど、今のほうが本音で話せている」
そんな状態をつくることこそが、1on1の持つ本来の意味だと言えるでしょう。

成果を評価・人事制度にどう反映させるか

1on1は、単なる雑談ではなく、本人の成長や働き方に関する大事な情報が詰まっています。こうした1on1の内容や流れは、組織全体の評価制度にも活かすことができます。

たとえば、1on1で得た気づきや行動が「自律性の発揮」「チーム貢献」などの評価基準と結びついていれば、本人も納得感を持って成長の手応えを感じやすくなります。ただし、注意したいのは、1on1の内容を評価そのものに直結させないこと。あくまで、評価の裏づけとして活用する、という姿勢が大切です。

また、人事制度側でも1on1の活用を含め「部下と向き合う姿勢を持っているマネージャーを評価する」など、制度的サポートを組み込むと、社内に定着しやすくなります。

1on1ミーティングの効果を高めるポイント

1on1ミーティングは、回数を重ねるだけでは効果が見えづらくなることもあります。大切なのは、対話の中身をどう充実させるか、そして部下にとって意味ある時間にできるかどうかです。

そのためには、フィードバックの質を高め、相手の思考や行動に前向きな変化をもたらす工夫が欠かせません。また、コーチング的な関わりを取り入れることで、単なるやり取りにとどまらず、部下の内面に寄り添いながら成長を支援することができます。

この章では、実践的なポイントとして「フィードバックの伝え方」と「コーチングスキルの活用方法」を中心に、1on1をより効果的にするためのヒントをご紹介します。

フィードバックの質を向上させる

1on1ミーティングをより実りあるものにするには、フィードバックの質を高めることが欠かせません。ここで大切なのは、「伝える内容」だけでなく、「どのように伝えるか」です。

たとえば、「最近の会議での発言がとても的確だったよ」と具体的な行動を挙げて伝えることで、相手は自分の取り組みがきちんと見られていると実感できます。抽象的な言葉よりも、現場での様子や実際のエピソードをもとにしたフィードバックは、納得感が高まりやすく、受け止めてもらいやすくなります。

さらに、できるだけポジティブな言葉を使うことも意識しましょう。課題がある場合も、「こうすればもっと良くなるね」というように、未来に向けた言葉に変えることで、受け手のモチベーションを保ちやすくなります。

そして、フィードバックは一度きりで終わらせず、定期的に続けることが重要です。1on1の場を通じて、少しずつ成長を実感できるようになると、部下自身が前向きに行動を振り返り、より主体的に取り組む姿勢が育まれていきます。

コーチングスキルの活用

フィードバックに加えて、コーチングの視点を取り入れることで、1on1ミーティングの対話がさらに深まります。コーチングの基本は、「相手の中にある答えを引き出す」ことにあります。すべてを教えるのではなく、問いかけを通じて気づきを促すスタンスが重要です。

たとえば、「最近の業務でうまくいったことは何ですか?」といったオープンクエスチョンを使うことで、相手の視点や感情を引き出すことができます。また、「今の仕事に対してどんなサポートがあるともっと力を発揮できそうですか?」という問いかけは、上司にとっても支援のヒントになります。

加えて、相手の話を受け止める姿勢、つまり「聴く力」も欠かせません。相づちや表情、うなずきなどを通じて、相手が話しやすい雰囲気をつくることも、コーチングの一部といえます。

そして、双方向の関係を築くという意味でも、部下からのフィードバックを受け入れる姿勢を持つことが、信頼を深める鍵になります。1on1は「教える場」ではなく、「ともに考える場」として、コーチングスキルを柔軟に取り入れていくことが、対話の質を高める一歩となります。

1on1ミーティングの失敗事例とその解決策

1on1ミーティングは、上司と部下の信頼関係を深め、成長をサポートするための大切な対話の場です。しかし、実際に運用を始めてみると、「部下が話してくれない」「話すことがなくなってしまう」「毎回同じような内容になってしまう」といった悩みに直面することも少なくありません。

こうしたつまずきは、1on1に正解があると思い込んでしまったり、部下の本音に耳を傾けきれなかったりすることが原因になっている場合があります。大切なのは、失敗を責めるのではなく、「なぜうまくいかなかったのか」「どうすれば次につながるか」を振り返り、改善の糸口を見つけていく姿勢です。

この章では、現場で実際に起こりがちな失敗パターンを取り上げ、その背景にある要因や解決のヒントを整理します。あわせて、改善のために有効な研修やロールプレイといった具体的な取り組みもご紹介します。1on1をより良い対話の場へと育てていくためのヒントとして、ぜひご活用ください。

部下が話さない/本音が出てこない

1on1ミーティングの現場でよく聞かれるのが、「部下がなかなか話してくれない」という悩みです。上司からいくら問いかけをしても、「特にないです」「大丈夫です」といった返答ばかりが続き、話が深まらず、意味のある対話にならないケースがあります。

このような状況の背景には、話すことへの不安や遠慮、過去の1on1で否定された経験、相手への不信感など、さまざまな要因が考えられます。「話さない」のではなく、「話せない」と感じている状態かもしれません。本音が出てこない原因は、単に話すのが苦手という表面的なものではなく、「安心して話せる雰囲気があるか」「話しても良いと思える相手か」といった心理的な要素が大きく影響しているのです。

つまり、本音が出てこないのは、信頼関係がまだ十分に築かれていないサインとも言えます。

たとえば、「最近、何か気になることはある?」「業務で悩んでいること、どんな小さなことでも大丈夫だよ」といった問いかけを使いつつも、反応が薄いときには無理に掘り下げようとせず、話しやすい雰囲気づくりに徹することが信頼への第一歩になります。

また、業務に直接関係のない雑談や、ちょっとした日常の話題も、信頼関係の土台を築くうえでは大切なきっかけになります。「業務の話をしなければならない」と構えすぎず、「話しても大丈夫」「聞いてもらえる」という安心感を少しずつ育てていくことで、やがて部下の内側にある本音が引き出されていくのです。

マンネリ化するミーティング

1on1ミーティングを継続していると、上司から「最近は何を話せばいいのかわからない」「以前と同じ話ばかりになってしまう」といった声が聞かれることがあります。たしかに、回数を重ねることで、話題が尽きたように感じる場面もあるかもしれません。

しかし、そもそも1on1は部下の成長や課題解決のために設けられる場です。話し手の変化に丁寧に向き合い、定期的に振り返りを行いながらPDCAを回せていれば、一つの課題が解決しても、そこからまた新たな課題や成長の種が見えてくるはずです。

たとえば、「前回決めたアクションはうまく進んでいるか」「今のやり方を続ける中で、違和感や変化はないか」といった問いかけを加えるだけでも、自然と深掘りや次のステップへとつながっていきます。

また、実際には「いまは決めたことを実行する期間」というタイミングもあります。そういった時期に、毎週行っていた1on1をあえて2週に1回や月1回へと一時的に調整するのも一つの工夫です。1on1を形として続けることが目的になってしまうよりも、状況に応じて柔軟に設計し直すことで、対話の価値が守られます。

マンネリに感じるのは、必ずしも話題がないからではなく、目的とのズレが生じているサインかもしれません。形式を見直し、話し手にとって意味のある時間になっているかを再確認することが、マンネリを防ぐ一番のポイントです。

改善のための具体的な取り組み例(研修・ロールプレイなど)

部下が話してくれない、本音が引き出せない、マンネリ化してしまう——1on1に関するこうした悩みは、個々のスキル不足ではなく、やり方やスタンスのすれ違いによって生まれていることが少なくありません。そのため、個人の感覚や経験に任せるだけでなく、1on1を組織として育てていく視点が大切です。

具体的な取り組みとして有効なのが、研修やロールプレイなどの実践型学習です。たとえば、1on1における問いかけ方や沈黙の受け止め方、話を広げるための言い換えなど、実際の対話に即したスキルを練習する場を設けることで、「どう聞けば本音が出やすいのか」「どんな声かけだと相手の心が開くのか」を体感として掴むことができます。

また、「何を話すかが大事なのではなく、どう受け止められるかが大事」という視点を学ぶことも大きなポイントです。話し手の反応を敏感に察知する力や、否定せず受け止める姿勢など、心理的安全性を支える態度も、研修を通じて育てることができます。

ロールプレイでは、あえて話が出にくい場面を設定したり、部下役・上司役を交代することで、話し手の心理的負荷や言葉にしにくい感情にも触れやすくなります。このような実践の場を繰り返すことで、1on1を単なる「面談の時間」ではなく、人と向き合う技術として深めていくことができるのです。

さらに、研修やロールプレイは一度きりではなく、振り返りや再学習の機会として継続的に取り入れることが効果的です。1on1を成長支援の仕組みにするためには、対話力そのものを磨く文化を組織に根づかせる視点が欠かせません。

信頼と成長を育む1on1のこれから

1on1ミーティングは、単なる業務の確認や指導の場ではなく、上司と部下が信頼を築き、成長の可能性を広げていくための大切な時間です。実施の目的を明確にし、継続的な対話を重ねることで、個々の意欲や可能性が引き出され、組織全体の力へとつながっていきます。

この記事では、1on1の基本から実践方法、失敗の対処や工夫のポイントまで、さまざまな視点からその効果を見てきました。今後、ますます多様化する働き方や価値観の中で、1on1は組織にとって欠かせない取り組みとなっていくでしょう。

最後に、あらためて1on1の意義を整理し、これからの展望について考えていきます。

1on1ミーティングの重要性

1on1ミーティングは、部下の成長を支えるための対話の場であり、同時に、チーム全体のエンゲージメントを高めるための貴重な機会でもあります。単に業務の報告を受ける場ではなく、上司と部下が対等な立場で意見を交換し、互いの考えや状況を理解し合うことが大切です。

このようなコミュニケーションが定期的に行われることで、部下は安心して自分の意見や悩みを話すことができるようになり、結果としてモチベーションやパフォーマンスの向上にもつながります。1on1は「上司が話す」「部下が聞く」といった一方的な場ではなく、双方が主体となる有意義な時間として位置づけることが求められます。

部下の小さな変化に気づき、継続的に対話を重ねていくことで、信頼関係が築かれ、よりよいチーム作りへとつながっていきます。日々の忙しさの中でも、1on1という時間を大切に育てていくことが、組織全体の土台を強くする鍵となるのです。

今後の展望

近年、1on1ミーティングは多くの企業で導入され、その価値が再認識されつつあります。働き方が多様化し、リモートワークが普及する中で、個々の従業員に向き合う姿勢がこれまで以上に求められています。

今後は、単に制度として1on1を導入するだけでなく、いかに質の高い対話を継続できるかが問われる時代に入っていくでしょう。フィードバックの仕方、傾聴の姿勢、キャリアやメンタルに対する理解など、上司自身のスキルやスタンスも見直していく必要があります。

また、1on1の運用状況を振り返り、成功事例や課題を組織全体で共有する取り組みも重要です。「話せる」職場の土壌をつくることが、これからの組織に求められる持続的な変化への対応力を育てていきます。

これから1on1を始める方も、すでに実施している方も、一度立ち止まって見直してみることで、より深く、より意味のある時間へと発展させていけるはずです。

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まとめ

1on1ミーティングは、ただの会話ではありません。管理職が部下の変化や考えを知ることができる貴重な時間であり、互いの信頼関係を築くための「場」なのです。

部下の状況や気持ちを把握し、成長につながるような具体的なフィードバックやアドバイスを継続的に行うことで、進捗状況の見える化や、チームの能力向上にもつながります。また、1on1を通して得た気づきを、今後の組織づくりにどう活かすかを考えることも、管理職の大切な役割です。

一方的なやり取りにせず、あいづちを交えながら相手の話を丁寧に聞く。そこから、考えを深め合い、次の一歩を共に実現していく。それが1on1の本質です。小さな対話の積み重ねが、大きな信頼と成果へとつながる――。
そんな可能性を信じて、これからの1on1にぜひ積極的に取り組んでみてください。

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監修者情報

株式会社アクシアエージェンシー
ビジネスソリューションユニット 研修開発グループ責任者

中島 昌宏

1999年株式会社アクシアエージェンシー入社。株式会社リクルートの専属パートナー営業として、HRメディア(新卒・中途採用)を中心に営業および管理職として営業・採用・部下育成などに23年間従事。2022年に研修開発部を立ち上げ、現在は社内及びお客様の研修講師と企画立案に従事。高校時代は野球部に所属し甲子園出場、大学時代には教員免許取得、その後プロゴルファーを目指し研修生を経験。